安倍首相の施政方針演説

今更なんですが、安倍首相の施政方針演説での気候変動・エネルギー関連部分をチェック。ほとんど自分のための備忘録に近いですが。

(エネルギー市場改革)

電力システム改革も、いよいよ最終段階に入ります。電力市場の基盤インフラである送配電ネットワークを、発電、小売から分離し、誰もが公平にアクセスできるようにします。ガス事業でも小売を全面自由化し、あらゆる参入障壁を取り除いてまいります。競争的で、ダイナミックなエネルギー市場を創り上げてまいります。

低廉で、安定した電力供給は、日本経済の生命線であります。責任あるエネルギー政策を進めます。

燃料輸入の著しい増大による電気料金の上昇は、国民生活や中小・小規模事業の皆さんに大きな負担となっています。原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた原発は、その科学的・技術的な判断を尊重し、再稼働を進めます。国が支援して、しっかりとした避難計画の整備を進めます。立地自治体を始め関係者の理解を得るよう、丁寧な説明を行ってまいります。

長期的に原発依存度を低減させていくとの方針は変わりません。あらゆる施策を総動員して、徹底した省エネルギーと、再生可能エネルギーの最大限の導入を進めてまいります。

安倍内閣の規制改革によって、昨年、夢の水素社会への幕が開きました。全国に水素ステーションを整備し、燃料電池自動車の普及を加速させます。大規模な建築物に省エネ基準への適合義務を課すなど、省エネ対策を抜本的に強化してまいります。

安全性、安定供給、効率性、そして環境への適合。これらを十分に検証し、エネルギーのベストミックスを創り上げます。そして世界の温暖化対策をリードする。COP二十一に向け、温室効果ガスの排出について、新しい削減目標と具体的な行動計画を、できるだけ早期に策定いたします。

個人的に気になったのは、上記で赤くしたいくつかの部分。

  • 電力自由化については、かなりはっきりと決意を述べていること。
  • 水素社会をあえてとりあげていること。ここ最近、この方向性は確定的になってきましたね。
  • 再生エネ・省エネは「最大限」という言葉遣いが続いている。
  • 大規模な建築物への省エネ基準の適合「義務」が言及されていること。2020年よりも前倒しになるって決まったのだったか。あとで確認しておかないと。
  • 削減目標の策定時期は、「できるだけ早期に」という表現から変わっていない。せめて6月冒頭の会議までには間に合わせたいところだけれども。

ADP2.8が2月8日〜13日に開催

今年も気が向いたときだけしか書けないでしょうけど、ぼちぼちと。

ADPの開始

昨年のペルー・リマでのCOP20の決定を受け、いよいよ今年最初の国連気候変動会議(ADP)が始まります。今回はスイス・ジュネーブで、2月8日〜13日の開催予定です。

相変わらず、いわゆるagenda fight*1を避けるために、第2回目から議題は閉じずにそのまま継続しているという形式になっているので、ADP第2回目の第8セッション(ADP2.8)という位置づけです。

ADP共同議長(Co-Chairs)から、今回の会議をどう運営するつもりなのかを記した恒例の「シナリオノート」も公表されています。

今回から、新しいADP共同議長さんたちです。

  • Mr. Ahmed Djoghlaf (Algeria)
  • Mr. Daniel Reifsnyder (USA)

リーフシュナイダーさんの方は、かつてコペンハーゲンまでの交渉の時に、AWG-LCAの議長も務められたことがある方ですね。議長が信頼を得ることができるかどうかって、この交渉ではかなり大事なので、その辺も注目です。

COP20・CMP10のレポート

今回のADPは、当然ながら昨年のCOP20の結果を踏まえて開催されるわけですが、つい先日、COP20とCMP10の正式なレポートが発行されました。

COPやCMPの「レポート」は、決定などがきちんと入れられた国連文書です。COP20での主な決定である"Lima call for climate action" は上記COPの方のAdd.1に入っています。

余談になりますが、私が新人の時に戸惑ったのが、結局、COP等で決まった「決定」文書はどこに行くのかということでした。

これ、なんだかえらく分かりにくいのですよね。だから、後で調べようと思って苦労した覚えがあります。

長年の経験?によって分かったのは、以下の流れ。

COPでは、決定時にLドキュメントという、ドキュメントシンボルにLが付いた文書が作られます。ま、いわば総会での決定前の決定草案としての文書ですね。たとえば、Lima call for climate actionの下書きはFCCC/CP/2014/L.14という番号が振られてました。

この文書は、いわば総会用の草案なので、最終決定ではありません。この後、変わる可能性があります。総会に文書が出てくる時は、だいたい、交渉は終わっていてそのまま採択されるようになっているものですが、時には総会で各国の間でドンパチやらかす時もありますので。

で、総会で決定がされると、最終的にそれが修正されて、決定文書となります。インターネットが貧弱だった時代は、この最終的な議論の推移を把握していないと、けっこう後にならないと最終的な文書がなんだったか、オブザーバーには分からなかった記憶があります。

今では、だいたい決定の翌日ぐらいに、総会で修正があった場合はそれも含めて、決定文書がUNFCCCのウェブサイトにアップされます。その時には、"advance unedited version"などの但し書きが付くことが多いです。

そして、それらが最終的にきちんとフォーマットなどが整えられて、正式な国連文書の記録として残るのが、上記「レポート」です。

で、レポートにも少し癖というか慣例がありまして、一連の文書のうち、最初の"Add.X"がついてない文書は、だいたいがproceedingsで、Add.1以降が実際の決定文書です。なので、その会議で一番大事な決定は、だいたいAdd.1に入っています。これが分かっていると文書の探しやすさが違います。

ちなみに、Addはaddendum、つまり付録・追加部分の意味で、要するに文書が長過ぎる場合に小分けにされるもんだと思って頂ければ。国連文書では、やや特殊な使い方がされますが、それはまたそのうちに。

*1: 議題を採択するだけで数日間もめて交渉時間を無駄にする行為を揶揄して使うようになった言葉

BASIC閣僚会議の結果

BASIC閣僚会議

気候変動に関する国際交渉で出てくるグループの1つに、BASICというのがあります。メンバーであるブラジル、南アフリカ、インド、中国の頭文字をとった名前で、途上国の中でも成長が著しい、リーダー的な存在の国々のグループです。
そのBASICグループの閣僚会議が先日あったようで、その共同声明文がインド政府・環境森林省のウェブサイトで公開されています。

BASICの閣僚会議は、別に公式な国連会議でもなんでもありませんが、このグループの国々が、何を今度の会議で主張するかを知る上では重要なので、NGO業界ではよく話題になります。
18回もやっているんですね。

COP20での成果について

具体的にどのような会議であったかは分かりませんが、共同声明文の中で、気になった箇所をいくつかピックアップしてみます。
まずは、今年のCOP20・COP/MOP10(ペルー・リマ)で期待される成果について。


4. The Ministers underscored the need for finalization of the elements for a draft negotiating text for the 2015 outcome by the COP in Lima. They reiterated that the six core elements for the 2015 outcome have been identified in paragraph 5 of decision 1/CP.17 and that these should be addressed in a balanced and comprehensive manner through an open and transparent, inclusive, party-driven and consensus-building process. [emphases added]
交渉テキストの「要素」(いってみれば章立て)について合意するべきだということについて、再確認をしています。これは、普通に考えればこれまでの合意の繰り返しにすぎませんが、逆に言うと、最近の傾向であり、議長国の希望である「リマで最初の交渉テキストを作る」というところまでは踏み込んでいません。
また、「要素」については、相変わらず、ダーバンでのCOP決定において上げられている6つの要素を基礎とするべきだという主旨のことが述べられています。この辺もポジションは変わっていませんね。

次期目標案・INDCsについて

お次はいわゆるINDCsです。INDCsとは、intended nationally determined contributions の略です。ざっくり言えば、各国が次期枠組みにおいて掲げる目標の案のことです。昨年のCOP19・COP/MOP9(ポーランドワルシャワ開催)にて、2015年3月までに出すことが奨励されました(本当の決定文はもうちょい複雑なのですが)。
まだ「案」であり、最終決定ではないという意味で、"intended"という言葉が使われ、上から課されるのではなく、各国が自分たちで決めるという意味で"nationally determined"という言葉が使われています。最後の"contributions"は、先進国も途上国も同じ"commitment"を負うべきだとした先進国側と、先進国と途上国は別々の約束、すなわち先進国="target"、途上国="action"として、責任の差を明確にするべきだという途上国側との間をとって採用された言葉です。
そのいわくつきのINDCsについて、BASIC閣僚共同声明文が言及しているのが下の部分。


7. The Ministers concurred with the need for all Parties to communicate their intended nationally determined contributions (INDCs) as early as possible. The Ministers affirmed that the INDCs would include all pillars of the Durban Platform - mitigation, adaptation,finance, technology development and transfer and capacity-building.

8. The Ministers stressed that in accordance with the Convention principle of differentiation, the commitments of the developed countries to be included in the INDCs should be quantified economy-wide emission reduction targets for mitigation and provision of finance, technology development and transfer as well as capacity building support to developing countries for their mitigation and adaptation actions. They reiterated that the INDCs of developing countries will be in the context of their social and development needs and will also be premised on the extent of financial, technological and capacity-building support provided by developed countries.

9. The Ministers emphasized that the information to be provided in the context of the INDCs would also need to be accordingly differentiated between the developed and developing countries in accordance with Article 12 of the Convention. The Ministers further stressed that the purpose of such information is to facilitate the clarity, transparency and understanding of the INDCs in accordance with the Warsaw decision.
[emphases added]
共同声明文をみると、
  • 相変わらず、BASICとしては、先進国と途上国を明確に区別した目標のあり方を求めていること
  • BASICは、引き続き、INDCsの中にいわゆる排出量削減目標だけでなく、とくに先進国は、資金・技術・キャパシティビルディングの支援を書き込むことを求めていること。途上国については、そうした支援の存在を条件としたものとなること
  • 提出の時期については、「なるべく早期に」という表現にとどまっていること
がわかります。いずれも、従来からのBASIC諸国の立場から大きく変わっていませんので、驚きはありませんが、相変わらず、先進国と途上国の明確な差異化を求めていることがやや気になります。INDCsは、そもそも各国が独自に作るものなので、あまりそこに固執して、交渉の硬直化を招いてほしくないなーというのが率直なところです。
あと、時期については、前回の国連会議のタイミングで、中国は来年前半に出すという意思を示していたので、もう少し他の国も含めて踏み込んでくるかなーと期待したのですが、やっぱそうはいかないですよね。
総じて、途上国側の雄としてのハードラインは変わっておらず、厳しい交渉となりそうです。

気象庁の『気候変動監視レポート2013』の発表

恒例の報告書

気象庁が今年度版の『気候変動監視レポート』を7月31日に発表しました。

この報告書は、ここ何年かは毎年発行されている報告書で、世界と日本の気候の状態や海洋の状態について、包括的にまとめたものです。

日本の天候・異常気象

日本の天候・異常気象については、「ポイント」として、以下のようにまとめられています。そういえば、去年の夏も暑かったなあ。


  • 北・東日本では2 年連続、西日本では3 年連続の寒冬となった。北日本日本海側の所々では記録的な積雪となり、最深積雪の歴代全国1 位4となる566 cm が酸ケ湯(青森県)で観測された。
  • 全国で暑夏となり、西日本では夏平均気温が1946 年以降最も高くなった。また、日最高気温の歴代全国1 位となる41.0℃が江川崎(高知県)で観測された。

  • 梅雨前線や台風等の影響によりたびたび大雨に見舞われ、記録的な豪雨となった所もあった。

気温の変動

気温の変動については、以下のようにまとめられています。


  • 2013 年の世界の年平均気温は、1891 年以降で2 番目に高い値に、日本の年平均気温は1898年以降で8 番目に高い値になった。
  • 世界の年平均気温は、100 年あたり0.69℃の割合で上昇している。また、日本の年平均気温は、100 年あたり1.14℃の割合で上昇している。
  • 日本の月平均気温における異常高温は増加しており、異常低温は減少している。
  • 冬日の日数は減少し、熱帯夜の日数は増加している。猛暑日の日数は増加傾向が明瞭に現れている。
世界の平均気温上昇を示したのが下記のグラフ。


真夏日猛暑日についても、増加傾向があることが分かります。


さくらの開花・かえでの紅葉

そして、引き続き、さくらの開花日は早くなり、かえでの紅葉は遅くなっているとのこと。


  • さくらの開花日は早くなっている。
  • かえでの紅葉日は遅くなっている。
どれくらい早くなったり遅くなったりしているのか気になるところでえすが、本文では、さらに詳しく、「1953 年以降、さくらの開花日は、10 年あたり0.9 日の変化率で早くなっている。また、かえでの紅(黄)葉日は、10 年あたり3.0 日の変化率で遅くなっている」と述べられています。


以上の情報の他にも、海洋酸性化であったり、オゾン層の問題であったりとか、色々な情報が載っています。

環境NGOによるボン会議の報告のまとめ

NGOによる報告

1ヶ月以上経ってしまいましたので、ちょっと今更な感じもしますが、そういえばまだ紹介してなかったので、日本の環境NGOによるボン会議のまとめをご紹介。

まずは、文書として用意されているもの。

それから、NGO合同(CAN Japan)で行った報告会のまとめ。Ustream動画へのリンクと、プレゼン資料へのリンクも下記ページにあります。

上のページではUstream動画で紹介してますが、下記YouTube動画でも、報告会の様子はご覧頂くことはできます。

政府などによる報告

日本政府による「結果概要」は下記に。

また、ほとんど公式文書化している、IISDによるEarth Negotiations BulletinのSummaryは下記にあります。記録的な文書をお好みの方はこちらがおすすめ。

次回は?

次回は、10月20日〜25日の日程で、ドイツ・ボンにおいて再び準備会合(ADP2.6)が開催されます。そして、その次が、今年のメインであるペルー・リマでのCOP20・COP/MOP10(12月1日〜12日)です。

2050低炭素ナビ(日本版2050パスウェイ・カルキュレーター)

先日、低炭素ナビ2050っていう、オンラインで操作できる簡易シミュレーターの発表会に行ってきました。

ウェブ上で操作できるウェブ版と、Excelファイルをダウンロードして操作する2つのバージョンがあるんですが、どちらも基本的な中身は同じです。

何ができるかっていうと、エネルギーの需要側と供給側に関する想定をそれぞれいくつか選ぶと、自動的に排出量の経路が描かれて、それが2050年時点でどくらいの温室効果ガス排出量削減につながるのかを計算してくれるというもの。

需要側・供給側の選択肢で選べるものが、わりあいと絞られているので、NGOが出しているようなシナリオをこのカルキュレーター上で再現するのは無理ですが、それでも、いくつかの選択肢をちょちょいと選ぶだけで、どんな感じになるのかが計算されるというのは、ツールとしては面白いですね。

どこのどんな想定が、どんな感じで効いてくるのかを知る上でも。

いじってみた想定とその計算結果は、シェアすることもできるようになってます。

ツールとして、こうしてオンラインで作業できる、っていうのは、これからの時代は必要な要素かもしれません。ひょっとしたら、政策議論参加にとっても大事な手法になるかも。

気候サミット2014へのオバマ大統領と習近平総書記の参加?

気候”サミット”

今年9月23日に、潘基文国連事務総長の主催で気候サミット2014(Climate Summit 2014)が開催されます。
これは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に基づいて、継続的に開催をされている締約国会議(COP)などの会議とは別で、言ってみれば一過性のイベントなのですが、招待されるのが基本的に各国首脳なので、注目を集めています。

COPとの比較で言いますと、COPやそれへ向けた会議というのが、通常は1〜2週間の会期で開催され、各国から実務レベルの交渉官が集まって交渉が行われるのに対し、今回のサミットは基本的に一日だけのイベントで、首脳クラスが主役です。
そういう性質上、細かいルールやら何やらを議論するというよりは、気候変動問題に対して、各国首脳クラスがモノを言う事によって、政治的な勢い(英語ではよくmomentumと言ったりしますが)をつけることに主眼があります。
今回は、各国のスピーチの他に、色々な分野で、様々な国や地域が実施しているイニシアティブを発表しまくるということもされるようなので、すでに動いているものも含め、首脳クラスからお墨付きを与えることによって、さらに盛り上げていこうという意図があるんでしょうね。

オバマ大統領と習近平総書記の出席?

この気候サミットに、オバマ大統領と習近平総書記が出ることが確認されたとの記事が流れています。

RTCCの記事の書き方だと、直接両国政府に確認がとれたというよりは、フィゲレス国連気候変動枠組条約事務局長が両国首脳が来ると言ったというだけのようなので、ちょっと微妙です。
が、The HillやGreenwireの記事では、ホワイトハウスの確認もとれたと書かれているので、おそらくアメリカの方は確認がとれているようで。
中国の方はまだ確定かわからないですね。
出席すればいいってもんでもないですが、アメリカと中国の首脳レベルから、パリ合意へ向けた強い意志が発表されれば、それは間違いなく追い風にはなるでしょうね。
安倍首相にも出て頂くことを期待したいと思います。