「尊厳ある移住」という言葉を使わせるということ

今日は気候ネットワークのイベントで、水道橋の近くの会場へ。

 

冒頭で講演をされたキリバス共和国名誉領事ケンタロ・オノさんのお話が迫力ありました。元々は日本人で、キリバス帰化されたということで、こういう現場感のある話を日本語で聞けるというのは結構極めて稀なので、よい講演でした。

 

 


気候ネットワークのLIVE

 

その中で、「私たちは『環境難民』にはならない、『尊厳ある移住(migration with dignity』を求める」という言葉が印象的でした。

 

そういう言葉を使わせる、使わなければならない状況に追い込んでいるということを、もっと日本としてはもうちょっと自覚しておく必要があるなあとしみじみ思いました。

 

 

アメリカ・インドの共同声明

なんだか相当久しぶりな記事になってしましました。

昨年末に、歴史的なパリ協定が採択されて、国際的な気候変動対策はかなり大きなうねりがあるわけですが、目下、多くの人の関心はそのパリ協定がいつ発効するのか、ということに集まっているようです。

昨日、それに関連して1つ重要な動きがありました。

アメリカとインドが共同声明を発表して、その中で、インドも早期の発効を目指すということについて、初めて明示的に声明に盛り込まれたのです。

気候変動だけでなく、他の分野も含んでいるので、かなり長い共同声明ですが、該当部分は下記になります。

India and the United States recognize the urgency of climate change and share the goal of enabling entry into force of the Paris Agreement as early as possible. The United States reaffirms its commitment to join the Agreement as soon as possible this year. India similarly has begun its processes to work toward this shared objective.

文書の書き振りから読み取れるのは、

  • 両者とも早期発効を可能にするという目標を共有する」とやや歯切れは悪い形ではありますが、「できるかぎり早期」について合意していること
  • アメリカは、「今年」に批准するということを再度強調していること
  • インドも、「同様の手続きを始めた」とあるが、「いつ」までにかは明確にしていない

というポイントがあります。

アメリカや中国については、すでに同様の発言が見られるので、アメリカの方は真新しくありませんが、インドについては、公式な発言としてはほぼ初であると考えられます。時期を明示していないので、どうとでも読み取れるというところはありますが、それにしても、こうした共同声明で早期発効の意志が示された意義は大きいでしょう。

世界の上位5大排出国の中で、あとよく分からないのはロシアですが、ロシアについても、事務レベルではすでに批准するよという発言もあるようです。

日本は、来年の通常国会までにという発言が先頃ありましたが、果たしてどうなるか。

また、これは批准の話ではないですが、個人的に気になったのは、以下の部分でした。

The leaders reiterated their commitment to pursue low greenhouse gas emission development strategies in the pre-2020 period and to develop long-term low greenhouse gas emission development strategies.

パリ協定では、各国が長期での低GHG排出発展戦略を作ることになっているのですが、2020年までに、それを作るということについて、ここでも再び強調がされました。先日のG7(つまり主要先進国)に続き、インドについても、この意志が確認されたことになります。

先進国の中ではすでに長期計画を持っている国はあるのですが、インドのような国でも、何かを出すという方針を出した意味はそれなりにあるでしょう。

 

 

 

北極に関するシンポに出てみて

北極に関するシンポジウム

今日は、「北極温暖化の実態と影響」というイベントに行ってきました。

個々のお話は面白く、勉強になるところが多かったのですが、会場からの質問や、パネルディスカッションのモデレーターの方からの質問に対する諸回答が煮え切らない回答が多く、なんとなく消化不良な感じでした(全部とは言いませんが)。

ま、そんな愚痴はともかく、日本の北極研究も、移行期にあるのだというのがよく分かりました。行くまではよく分かっていなかったのですが、けっこう分野横断的にやろうとしたGRENE(グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス)というプロジェクトが今年度でおしまいで、今度は、ARCSというプロジェクトが始まるということらしいです。「北極での激変する環境変化に、研究者の人たちもあたふたしている」というあるパネリストの言葉が印象に残りました。

シンポジウム本体とは少し離れるのですが、発表の中で使われている図表等や、会場の外にあったポスターを見ていて思ったのですが、結構、北極の状況についてのデータとかって、きっちり公開されているんですね。

家に帰ってから少し調べてみました。

日本の研究機関から提供されている北極関連のデータ・図表

気候変動の議論をしていると、北極の海氷面積が小さくなっている!というニュースは頻繁に目にします。

その時に、海氷面積の図をよく目にするわけですが、どちらかというと、アメリカのNSIDCという機関の図表が使われているのをよくみます。

ですが、日本の研究機関も、頑張ってデータを公表し、かつ可視化の努力をしています。

下記は、そのうちの一つ。

北極の海氷面積の季節変化をグラフ化したものです。北極域のデータの相互利用を目的として公開されているADS(北極域データアーカイブ)というところで公開されているグラフです。1本1本の線グラフが、1年を代表しており、横軸が月、縦軸が海氷面積となっています。2012年9月が最も海氷面積が小さかったことが分かります。

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また、これをさらに可視化したのが、ロケットで有名なJAXAの一部であるJASMES(宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)のウェブサイトで公開されている「海氷ギャラリー」の画像です。こちらは、正確には「海氷面積」ではなくて「海氷密接度」を測ったものですが、イメージをつかむだけなら問題はないでしょう。

本当はこんな感じで、ダイレクトにアップしたら怒られてしまうかもしれませんが、活用されないよりはマシだろうと思うので、アップしてしまいます。いちおう、出典は明記してますので・・・。

まず、比較のために、1980年の北極の様子を、年間を通じて表示しているのがこちら。右上で、月日が経過していく模様が見て取れます。

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次に、観測史上最も海氷面積が縮小した2012年の時を表示しているのがこちらです。

こちらは画像をはてなフォトライフにアップしようとするとなぜか失敗するので、リンクを張っておきます。20メガバイトもある重い画像ファイルなのでご注意下さい。

http://kuroshio.eorc.jaxa.jp/JASMES/climate/data/gif_a/JASMES_CLIMATE_IC1_20120000_5DAVG_PS_0900_0900_NHM_200.gif

1980年代と比べると、右上の数字が9月近辺に達したときの、海氷密接度がハンパなく小さくなっているのがよく分かると思います。

ちょっと難しいですけど、こういうのも、現実に気候変動の影響によって何が起きているかを伝える上では重要なツールであるし、もっと活用されてもいいように思います。

アメリカのNSIDC

ついでなので、アメリカのNSIDC (National Snow and Ice Data Center) が公表しているデータもついでに見ておきたいと思います。私は、海外のニュースを見ることが多いせいか、北極の海氷面積に関しては、こちらのデータを見る機会が多い気がします。

グラフとしては、下記のもの。先ほどの、日本の研究機関のものとほぼ同じですね。

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また、海氷面積に関する図。先ほどと同じく、まずは1980年9月の海氷面積です。こちらは、同じくNSIDCのSea Ice Indexというページから見る事が出来ます。このような過去の図表については、アーカイブに閉まってあるので、そちらまで見に行く必要がありますが。

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そして、次に観測史上最小時の2012年9月時点での海氷面積です。

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 正直、NSIDCのウェブサイトの方が、情報提供のインターフェースは洗練されていますね。なんというか、使いやすい。でも、日本の研究機関も頑張っているので、もっともっと活用されていいなと思った今日この頃。

 

 

 

先日の国際世論調査データの可視化

前回のエントリーで取り上げたPew Reserch Center の世論調査について、英紙The Guardian がデータの可視化をしています。

へえ、こんな方法があったかと感心させられます。

国産世論調査で、気候変動が一番の脅威として認識される

ニュースをチェックしていて、下記の時事の記事を見つけました。

元ネタは、Pew Research Centerによる国際的な世論調査です。

世界各国の一般市民に、国際的な問題の中で、何を一番の脅威と感じているかを聞いた調査です。それによると、地球規模での気候変動を選んだ人の割合が一番多かったそうです。

やや驚きです。それなりに高いところには来るとは思うのですが、1番というのは。

各国別に見ていくと、それなりにばらつきがありまします。日本では、1番はISIS(72%)、2番目は中国との領有権争い(52%)、そして、3番目に、地球規模の気候変動(42%)が来ます。例の人質事件があった時期と調査期間が被ったからかなと思いましたが、人質事件があったのが今年始めで、この調査が行われたのが今年の5月でしたので、ISISに対する不安というのは結構根付いたようですね。

「4割の人が脅威と思っている」という数字は、少し微妙ですね。国際的に見て、ことさらに低いわけではありませんが、決して高くもありません。

ちなみに、調査対象になった40カ国の中で、「地球規模の気候変動」を選んだ市民が7割を超える国をピックアップしてみると(特に7割に根拠はないのですが)、インド、フィリピン、ブラジル、ペルー、ブルキナファソ、ガーナ、ウガンダでした。けっこう、地域的にはばらけているかもしれませんね。

排出量データの可視化

最近、色々複雑なデータをどうやって可視化するのかということに関心があります。今日も、WRI (World Resources Instiute) のウェブサイトを用事があって、あさっていたら、下記のインタラクティブなグラフを見つけました。

うまくできてますよねえ。ちょっと、操作に癖がありますが。

元々、温暖化の話では、科学にしても対策にしても、色々なデータが出てきますが、分かり易いグラフというのはそれだけで目を引いたり、興味をかき立てられたりしますよね。

少しでも関心をもってもらうためには、プレゼン等で、なるべく分かり易くグラフを作るにはどうしたらいいんだろうという悩みや、流行のインフォグラフィックスを上図に作ったりするにはどうしたらいいのだろうとか、ウェブ上でのインタラクティブ名データの可視化(visualization)にも関心が。

WRIは、ここ数年、こういうデータの可視化にすごく力を入れているように感じます。この業界の人には有名なCAITという統計サイトはその典型例ですが、上図以外にも、けっこういろいろありました。

少し古いものになりますが、英紙ガーディアンの下記のグラフ(リンク先)も面白かったです。こちらは、化石燃料企業のどこにどれくらい排出量が由来しているのかが分かるというものです。

こういうの、自分でも作ってみたいなあ。

6割の国が目標案を提出して・・・

6割出した

2010年の世界の排出量の割合にして、約6割を占める国々が、INDCを提出しました。INDCとは、2025年や2030年を射程とした気候変動(温暖化)対策の目標のことです。

出した国々の中には、アメリカ、EU、中国が含まれます。

日本は、すでに国内で色々報道があるので、出したという印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はまだ正式には国連帰国変動枠組条約事務局には出していません。ついこの前まで、パブリックコメント募集をしてました。このあと、最終的なとりまとめが行われて、政府・地球温暖化対策推進本部で決定されたのち、日本の提出時期は、7月中旬くらいになると言われています。なんだかんだいって、中国より後になってしまったのは残念です。

今後の交渉への影響ある?

やはり、アメリカ、中国という二大排出国がまがりなりにも目標を出してきたことで、今後の影響にも少なからず影響を与えると思います。

「具体的に何が変わるの?」と言われちゃうとちょっと辛いのですが、少しざっくりとたとえでいうと、米中が出してきたことで、「12月のCOP21でパリ合意が成立しなくてもいいや」と考える交渉官の数はかなり減ったということが言えるかもしれません。

国連でのパリ合意へ向けた交渉は、現在は、「交渉テキスト」と呼ばれる文書をベースに行われています。7月24日に、新しい議長案が出てきて、次回8月末〜9月頭、そして、10月の会議へと交渉が続く予定です。

現在、一番新しいテキストは下の2つです。


前者がまとめに近く、後者は、そこに至るまでの、テキストのセクション毎の議論の過程を少し書いてある文書といえます。共同議長が、今後のプロセスについて説明した文書はこちら。


でも「2℃未満」には足りない

各国が出した目標は、それでも、国際的な目標である「地球の平均気温上昇を2℃未満に抑える」という大目標には足りなくなるだろうというのは良く知られています。アメリカ、中国、EU、そしてもちろん日本の目標ともに、充分なものとはいえないからです。この分野の英語では、排出量削減目標が充分に高いことを"ambitious"とよく表現するので、「野心的である(ない)」とよく表現されます。

各国の目標案の評価の例として、Climate Action Tracker という欧州の複数の研究機関が合同でやっているイニシアティブによるものがあります。

ではどうするのか。

こうしたことを背景として、去年辺りからじわじわと話題になってきたトピックがあります。それが、「サイクル」や「タイムフレーム」と呼ばれる議論です。今度は、その辺についてもちょっと説明してみようかと思います。