宮部みゆき 『ぼんくら』 講談社文庫 2004年

#テストも兼ねて記事をいくつか書いてみることに。

ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

宮部みゆきの作品は、これまでに1つしか読んだことがなかった。といっても、別にその作品がつまらなかったから読まわなくなったわけではなく、単に縁が無かっただけだ。唯一読んだことのある『火車』は、かなり面白かったという印象がある。もう、話の細部はまったく覚えていないけれども。

今回、この『ぼんくら』を読むきっかけとなったのは、本屋に平積みにされていて気になったということ以外に、もう1つ、最近、妙に時代小説が読みたい気分だったというのがある。

他の人はどうか知らないが、僕はけっこう「その時の気分」というのが読み物選びでは非常に大きなウェイトを占めてしまう方で、ある時は海外ミステリーが読みたくなり、あるときは至極まじめな文学が読みたくなったりする。

今は、「時代小説」な気分でそれも割合と最近のが読みたい。この『ぼんくら』の前に、宮本昌孝の『夏雲あがれ』(集英社文庫)を読み、これがなかなか秀逸な作品で、ますます続けて時代小説を読みたくなった。

『ぼんくら』は、妙な始まり方をする。江戸深川の鉄瓶長屋ということろで起きた殺人事件から話は始まるのだが、最初は、あたかも同じ舞台を使った短編小説集であるかのように、一話がひとまず完結した短いお話が続く。だから、最初読み始めた時には「あれ、これって短編集だったのかな」と思ってしまった。

しかし、上巻も半ばになって、「長い影」という章が始まると、いよいよ本格的な事件探索が始まる。いわば、それまでは舞台設定であり、ここからが本番だ。

主人公は、人は好いけれど面倒くさがり屋の同心・平四郎。彼の人生のやる気のなさには思わず共感を覚えるところが多い。彼に加え、冒頭の殺人事件がきっかけで長屋を離れることになってしまった九兵衛の代わりに来た若い差配人佐吉、面倒見の良いお徳、平四郎の養子候補の弓之助といった面々を中心に、主に鉄瓶長屋を舞台として話が展開する。

文庫の帯には「傑作時代ミステリー」とあるが、大仰なトリックやら大どんでん返しが売りというわけではなく、どちらかというと、江戸の「長屋」という社会背景を舞台装置として使ったミステリーである。

平四郎と弓之助のほほ笑ましいやりとりなどがほのぼのとした雰囲気を全般的に与えていて、それがある意味緊張感の無さにもつながっている。

本格ミステリーを読みたい人にはお勧めできないが、一風変わった時代小説を読みたい人にはオススメの作品だった。