福田総理のダボス会議でのスピーチ

前回も書いたが、日本時間の26日19:30(正確にはちょっと過ぎていたが)ダボス会議(世界経済フォーラム)で、福田総理がスピーチを行なった。

福田総理は、スピーチに先立ち、BBCのインタビューに答えたり、Financial Timesに寄稿したりしていた。

ダボス会議でのスピーチの模様は、会議のウェブサイトから見ることができる。PODキャストのバージョンやVODキャストのバージョンもあったりするのは、最近の国際会議ならではか。

スピーチの原稿は、外務省のウェブサイトに掲載されている

さて、スピーチの内容についてだが、やはり注目すべきは、2013年以降の枠組みの中で、日本としても国別総量削減目標を掲げる用意があることを述べた以下の部分だろう。

私は、G8サミットの議長として、主要排出国全員が参加する仕組みづくりや公平な目標設定に、責任を持って取り組みます。
そうした中で、日本は、主要排出国とともに、今後の温室効果ガスの排出削減について、国別総量目標を掲げて取り組みます
この目標策定に当たり、私は、削減負担の公平さを確保するよう提案します。
科学的且つ透明性の高い尺度としてエネルギー効率などをセクター別に割り出し、今後活用される技術を基礎として削減可能量を積み上げることが考えられます。
公平の見地から基準年も見直されるべきです。公平が欠如しては息の長い努力と連帯を維持することはできません。 (強調は管理人)

これに関しては3つのポイントがある。

まず、「国別総量目標」を掲げることを明言したこと自体は評価されるべきである。

しかし、本来は、日本の中期および長期の削減目標自体をこの時点できちんと示すことが望ましかった。昨年の安倍前首相の「美しい星50」の発表では、すでに「世界全体で」排出量を半減させていくということを述べているし、国連交渉の流れは、やがて各国の将来の排出削減目標について決めていく方向に動き始めている。

これには、経産省や産業界が、次期枠組みにおいても“総量”削減目標という形式を使用すること自体に難色を示している現実がある。その中で、G8の議長国としてリーダーシップを発揮することとのバランスをとった結果、自国の削減目標をきちんと掲げる用意があることを述べるにとどまった、というのが今回のスピーチだろう。「主要排出国とともに」という条件も、あいまいな形で付加えられている。

ただ、というべきか、だからこそ、というべきか、目標の決定の仕方について、セクター別の効率を考慮に入れたボトムアップ・アプローチが必要だということが同時に提案されている点が、第2のポイントである。

各国、各セクターの削減ポテンシャルを効率性を基準にして検討し、その上で目標を策定していくという考え方は、一面、正しいと思う。しかし、それが目標策定にあたっての主要な基準になってしまうと、現時点でできると考えられる保守的な削減目標が最終的には積み上がり、気候変動の防止のために必要なレベルに到達しない可能性が高い。

また、公平性が重要というのであれば、たとえば一人当たりの排出量などの責任に関する指標や、どれくらいの資金的・技術的能力があるかの指標も考慮に入れられなければならない。

日本の政府や産業界は、京都議定書においてヨーロッパに対して非常に不利な目標を押し付けられたという気持ちが強く(森林吸収源の利用可能量等を踏まえれば、決してそう単純な話ではないのだが)、それがこうした主張の背景にはあるし、最後の3番目のポイントにも関係してくる。

最後のポイントは、基準年の変更を求めている点である。

これは、1990年という年が、ヨーロッパ(EU)によって有利だ、という考え方が根底にはあると考えられる。90年であれば、特に東ヨーロッパにおいて効率の改善は容易であったり、経済停滞に起因する排出量の自然減もあったりしたから、それらがヨーロッパには利したという話である。

ただ、よくわからないのは、上述の通り、本当に現時点での効率性をベースに目標を決めるつもりなのであれば、基準年の変更ははっきりいってあまり意味を持たないはずである。数字がどのように見えるかの違いは生じるが。

上述の引用の他、具体性のある内容としては、あと2つある。

1つは、エネルギー効率改善である。

私は、世界全体で、2020年までに30%のエネルギー効率の改善を世界が共有する目標とすることを提案します。

この目標は、日本の新・エネルギー国家戦略において既に言及されているから、今回も言うことができたのであろう。

もう1つは、「新たな資金メカニズム」としての「クールアース・パートナーシップ」の構築である。

国際環境協力のもう一つの柱は、排出削減と経済成長を両立させ、気候の安定化に貢献しようとする途上国に対する支援です。
その一つの方策として、我が国は、100億ドル規模の新たな資金メカニズム(クールアース・パートナーシップ)を構築します
これにより、省エネ努力などの途上国の排出削減への取組に積極的に協力するとともに、気候変動で深刻な被害を受ける途上国に対して支援の手をさしのべます。
あわせて、米国、英国とともに多国間の新たな基金を創設することを目指し、他のドナーにも参加を呼びかけます。
このような手段を活用し、途上国とも連帯を強化して全球の温室効果ガス削減を目指します。(強調は管理人)

実は、この「新たな資金メカニズム」の設立そのものは昨年の「美しい星50」でも言及されていた。今回のスピーチで新しいのは、そこに100億ドル規模という具体的な数字が出てきたことであろう。

ただ、この資金の性質は未だに不明である。「クールアース・パートナーシップ」のすぐあとで、「多国間の新たな基金」と述べていることをふまえると、「クールアース・パートナーシップ」は多国間基金ではない、つまり、二国間援助であるようにも読めるが、一体どうなのか。また、これはODAの別名なのか、それとも本当に全く新しい資金なのか。今後ともこの辺は見ていく必要があるようだ。


総じていうと、おそらく総理自身は、G8をホストするにあたって、けっこう気候変動の問題について積極的な言明したい中で、いろいろな国内事情を踏まえて曖昧にせざるを得なかった部分がにじみ出た内容だったのではないかと思う。

7月7日のサミット本番までに、どこまで前進できるかがみどころである。