山口絵理子『裸でも生きる』 講談社 2007年

裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 (講談社BIZ)

裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 (講談社BIZ)

「うわーこの人のすげーな」というのがこの本を読んでまずの感想である。

本書は結構売れているみたいだし、帯にはTBS「情熱大陸」でも放送されたとあるから、もうけっこう有名なんだろう(流行はいつも三周遅れくらいで私のところにやってくる)。

一応、簡単に紹介しておくと、子供のころはいじめられて”不良”(既に死語か)にもなった経験がある著者が、柔道と出会って柔ちゃんになるのかと思ったら、その後、バングラデシュと出会ってしまったことをきっかけに、当地でバッグを生産するという企業を立ち上げて、踏ん張りながら頑張っていく過程を綴った本である。今はやりの言葉でいえば、社会起業家といえるだろう。

世の中広いから、こういう苦労をしている人もたくさんいるんだろうけど、1冊の本で、自分が関心ある分野で踏ん張っているストーリーを一人称で読ませてもらえると、その感慨もひとしおである。

何がすごいって、その危ういほどの行動力とタフネスがすごい。

まず、思い立ってから行動に移すまでのスピードの早さが半端じゃない。本だから、色々と間に省略されているものが多いのだろうとは思うが、それにしても、「世界最貧国ということでバングラデシュの様子を見にいくことを決定→2週間の滞在中に思いついてしまってバングラデシュの大学院に行くことに決定→合格通知と共に帰国」とか、私なら1年は悶々と悩んで結論ださなそうな話を、自分の「思い」を信じてグングン前にとりあえず進んでいってしまう。

事業がきちんと回り始めて、今度は方針の面で壁にぶち当たったとき、そこから悩んで「バッグの修業をする」という結論に達して、本当にバッグ作りを自分自身で習い始めてしまったりもする。私だったら、「バッグ作りみたいな職人技を、今更やったってモノになるわけない。時間のムダ」と考えるに違いない。

文章にもそうした勢いが出ていて、迷いを行動でふりきっていく部分はけっこう読んでいて爽快だったりもする。何かと慎重派な私は、石橋を叩いてもわたらない性格であるせいか、こういう「ひたすら行動派」の人の話を聞いたり読んだりすると、「こういう人には一生かなわんな」と思う。

かといって、それが無神経に進んでいるだけなら感心はしないのだが、けっこうボロボロになったり災難にあったりして、泣きながら、それでもなぜか立ち上がって次の行動へと移っていくタフネスがまたすごいと思う。その人にとってそれほど辛くないことを、自分より簡単に成し遂げていく人に対しては、私は才能の違いだと思えどそれほど尊敬はしないが、その人にとっても非常にシンドイものを、自分では考えられない勢いで成し遂げていく人は尊敬せざるをえない。

また、本人が経験した数々の苦労を通じて、バングラデシュについて考えたことというのも、結構な説得力を持って迫り来るものがあるので参考になる。中でも重要なのが、著者のビジネスに根底に流れる考え方として、援助の対象として途上国を見るのではなく、バングラデシュのにおいてバッグの品質で勝負ができる工場を作って、日本のマーケットの中でビジネスとしてやっていくという姿勢である。こうした部分は、一種の途上国論との関わり方の論としても読める。

ストーリーの中で読まないとその重みは半減するが、特に印象に残った部分を引用しておく。

貧しさは生活の至るところで人間を傷つける武器として現れた。その度に、どんなに変えたくても変えられない現実があるんだと思い知った。車に跳ねられても一言も言えずに立ち去る少年も、クラスメイトの女性も、リキシャ引きになる少年も、洪水の中泳いで薬を買いに行く子どもも、みんな、生きるために、生きていた。そこに生まれなければ発揮できたはずの沢山の可能性がある。しかし、正義や努力が日の目をみない腐った社会でも、自分の生きる道を何とか切り開き、力強く、生きていた。(p. 111)

本書のタイトル、「裸でも生きる」は、きっとこの辺からとったのだろうと思う。

著者が経営するマザーハウスは、結構繁盛しているようで、ウェブサイトもけっこう立派で著者のブログも読める。