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排出量取引制度の「試行的実施」

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昨晩、福田前総理の時に設置された「地球温暖化問題に関する懇談会」が開催され排出量取引制度の試行的実施と日本の温室効果ガス削減に関する中期目標についてちょっとだけ議論がされたようだ。後者については、どうやら中期目標検討委員会というのが設置される模様。朝日とかの報道によれば、座長が福井俊彦日銀総裁になるらしいが、それ以外の詳しいメンバーについては発表がない。

続いて、今朝は「地球温暖化対策推進本部」が開かれ、排出量取引制度の試行的実施の開始が正式に決まった。近日中には具体的に参加企業の募集が始まるらしい。

今回は、その試行的実施の内容について個人的に考えたところを書いてみたい。

まず、率直な感想として、評価が非常に難しい。

というのは、一方で、試行される制度の中身を見た場合、とても中途半端な感じなのだ。他方で、何はともあれ「やってみる」という感じで議論が一歩でも半歩でも前に進むきっかけになるかもしれないという期待はある。

「部分的」試行

なぜ「中途半端な感じ」なのかというと、この試行の中身では到底キャップ&トレード型の排出量取引制度の試行とは呼べず、排出量取引制度が環境政策として有効かどうかのテストにはならないからだ。

セオリー通りの排出量取引制度というのは、

  1. 対象となる部門を決めて
  2. その部門の合計の排出量上限を決める(これが“キャップ”)
  3. そのキャップの範囲内で、各企業に排出枠を配分する(これを“初期配分”という)
  4. 各企業は自らの自らの排出枠に合った排出量しか出すことができないので、足りない場合は、排出量を減らすか、もしくは他から排出枠を買ってきて排出枠の方を増やすかして帳尻を合せる

というような感じで進む。しかし、今回の試行的実施では、このうち、一番肝とも言える2〜3のステップが実施されない。EUで排出量取引が2005〜2007年まで第1期の試行期間として実施された時も、やはりこの2〜3のステップについて、各国政府が定めるNational Allocation Plan (NAP) の策定が一番揉めた部分であった。

今回の試行的実施は、そういう全面的な試行ではなく、あくまで企業の自主的参加を前提とした仕組みになっている。そもそも参加するかどうかは、原則として企業の自由だし、参加する企業は、排出量の総量目標かもしくは原単位目標かを自主的に決めて参加をする。一応、政府による審査があるようだが、既存の自主行動計画と整合的であれば、それ以上の目標はおそらく求めることにはならなそうだ。

そもそも、排出量取引制度が環境政策として優れている点の1つは、上述のステップ2のキャップ設定によって、対象部門の排出上限をあらかじめ決めてしまえるという点にある。ここを抜かして、個々の企業に自主的目標の採択を許してしまうのであれば、「環境政策としての」排出量取引制度の大きな利点をスルーしてしまうことを意味する。

また、自主的に目標を決めさせるということは、3の初期配分の議論もやらないということになる。この初期配分の仕組みをある程度合理的かつ公平に作ることができるかどうかが、この制度の大きな鍵になる。EUの第1期の試行期間時に使われ、批判の大きかったグランドファザリング方式はそうした仕組みの1つだ。おそらく、日本はEUの反省も踏まえて、ベンチマーク方式という、個々の企業の効率を踏まえることができる方式をなるべく使うのが良いだろうと考えられるが、そのテストも、現状のままではできない。

キャップ設定と初期配分というのは、キャップ&トレード型の排出量取引制度が環境政策として有効に機能するかどうかを見る上で極めて重要なポイントであるのに、それらの部分がきちんとテストされないという意味で、とても中途半端なわけである。

今回の試行的実施でテストができる部分というのは、もっと実務的な部分で、個々の企業における排出枠の扱いとか、実際の取引の仕組みとか、そういうところがメインになるのではないかと思う。

逆に言うと、この試行的実施がが実際的な効果を出さなかったとしても、なんら不思議はない。そこを持って「やっぱり効果がなかったじゃないか」みたいな評価が下されてしまったりしたら、キャップ&トレードという制度が泣く。

とりあえずやってみる精神

というわけで、不満の多い試行的実施なのだが、一概に「全然意味ない」と切って捨てるわけにもいかない。

これまで、日本での排出量取引制度をめぐる議論というのは、入口での水掛け論に終始していた感がある。そこを、こうした(不十分ながらも)実践に踏み出すことで、議論の突破口が開かれるかも知れないという部分はある。

考えても見れば、2004年に京都議定書地球温暖化対策推進大綱(現在は京都議定書目標達成計画になっている)が見直された時は、排出量取引制度ははっきり言って議論の俎上にはのってなかった。それが、こうして導入の可能性すらうっすらと見える議論がされているというのは、隔世の感がある。

そういう意味では、ちょっとだけ前進しているということもいえる。

大事なのはフォローアップで大転換すること

政府の資料によると、来年の1〜3月に最初の中間レビューがあり、おそらく秋から冬にかけて第1回目のフォローアップがあるようだ。この時期は、ちょうど国連交渉が山場を迎え、将来枠組みの中での日本の目標も決まるかもしれないという大きな局面にさしかかっている段階だろうと思われる。

そういう雰囲気をうけつつ、フォローアップで、こうした中途半端な試行的実施から、もっと本格的な試行的実施へとグレードアップが図られることを期待したい。その間に、実務的な面で学べるだけのことは学びつつ、詳細な制度の議論は別途進めておく必要があるだろう。