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オバマ氏

温暖化 海外事情

もう既に「今更」な感があるが、やっぱり歴史的な出来事なので、一言かいておきたい。他国の大統領選挙にこれほど心動かされるのもなんか癪に障るものがあるが、演説をネットで見たら素直に感動してしまった。

敗軍の将としてのマケイン

特に、マケイン氏のものに。日本語訳は、なぜか著名なブロガーの小飼弾氏のサイトでいち早く紹介されていた

ゴア氏が負けた時の演説でも感動した覚えがあるのだけど、今回のマケインの演説もかなり良かった。「負けたことをクヨクヨ言わない」というのは基本だと思うのだが、この選挙自体の体験を極めて肯定的にとらえ、自らを支えてくれた人に感謝をし、そして何よりも、自分を支持してくれた人にオバマ氏の政権での団結を訴える。"Failure is mine, not yours." 「これは私の敗北であり、皆さんのではありません」という言葉で、明日のアメリカへ向かっての前進を促す。

うがった見方をすれば、「スピーチライターによるマケインのダメージコントロール」とも見えるだろうが、そのスピーチが胸に迫るのは、やはり一定の本気がその後ろにあるからだとおもう。敗軍の将の引き際の台詞としては、特筆に値する建設的な姿勢だと思った。

変化と希望を代表する新大統領

さて、オバマ氏である。こちらも、日本語訳は小飼弾氏のサイトで

「変化」を訴え続け、そして自身も「初の黒人大統領」ということで「変化」を代表し続けた人物が勝利したことは、日本で小泉氏が勝った時と若干ダブるものがある。今、何よりも求められているのは、変化への希望だからではないだろうか。「小泉氏と比べるなよ」と叱責が聞こえてきそうだが、あの時も、日本人は閉塞感のある自民党政治への「変化」を期待したのではなかったのだろうか。

演説の大部分が、"Yes We Can" に代表されるアメリカ自身のエンパワーメントと希望を鼓舞することに集中しているのも象徴的だ。アメリカが危機的な状況にあり、「政治はどうせ役に立たない」という空気が蔓延しているときに、これほどまでに「希望」に満ちた物言いができる政治家が登場するというのが、彼の国の懐の深さなのかと思う。

気候変動問題にとって

気候変動問題の業界の人間としては、やはり一番気になるのは、オバマ氏がいつ気候変動問題に対する方針を明らかにするか、そしてその中身がどれくらい野心的なものになるのかということである。

朝日新聞の報道ではオバマ氏は任期が始まる以前の来月12月の国連気候変動会議(COP14・COP/MOP4;ポーランドポズナン開催)に、代表団を派遣するという。さすがに、オバマ氏本人が来るという訳にはいかないようだが、メッセージが届けられるだけでもポズナンでのダイナミズムは全く違ったものになる。それは、途上国の交渉姿勢はもとより、日本やEUの姿勢にも影響を与える。どちらのケースでも、総じてポジティブな影響を与え、交渉を前進させる要因になるだろう。それは、たとえ中身がそれほどなくてもだ。これまでの政権から出てくるメッセージは、ある意味で底辺を作ったから。

そして、やがて発表されるであろう新政権の方針がどの程度野心的かつ具体的かによって、日本に与える影響は大きく変わる。

まず中期目標が発表されれば、まだ発表時期すら(2009年内であること以外は)明らかにしていない日本には大きなプレッシャーになる。そしてその目標のレベルが、2020年までに1990年比0%という数字にどれくらい近いか、あるいは超えてくるかで野心の度合いが分かる。なぜ2020年までに1990年0%が目安になるのかといえば、今年、議会(上院・下院両方)に出された数々の法案で、最も野心的な部類がそこに集まっているからだ。一番、いいところまでいったリーバーマン・ウォーナー法案は、2020年に1990年比4%になっているが、それ以外の野心的な法案(ケリー・スノウ、サンダース・ボクサー等)は2020年までに1990年比0%であるう*1。つまり、議会を通るレベルがその辺り、ということになる。無論、政局の変化等によってこのラインは変わり得るが、現状ではこのラインが最も野心的なラインであるというのが妥当であろ。

また国内の政策に排出量取引が入ってくれば、日本の中での排出量取引に関する議論も全く変わってくると思う。これについてはオバマ氏は選挙中から表明しているので、おそらくそうなるだろう。それが、物事の進み方として望ましいあり方だとは思わないが、EU、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドといった国や地域で排出量取引が気候変動対策の主流になりつつある中で、日本だけがそれとは違うと言い続けるとは考え難い。逆にそれでも日本は違う道を歩むと高らかに言えるのであれば、それはそれで大したものかもしれない。

重要なのは、アメリカの政策が明らかになるタイミングがいつ来るかだ。まず、今回のポズナンでの国連会合でどれくらい具体的なメッセージが届けられるかが問題だ。ただ、正式に政権が発足しておらず、政権のメンバーすらどうなっているか分からない状況で具体的なメッセージが出てくるというのは考え難い。

次にの分かれ目は、来年最初の国連会合が開かれる4月上旬に間に合うかどうかだ。通常であれば、これは間に合うはずだ。忘れもしない、ブッシュ大統領京都議定書離脱を宣言したのは、2001年3月末だった。つまり、この時点では、(どう考えても彼の中で優先順位が高かったとは言えない)気候変動政策についての方針がある程度固まっていたわけだ。

そしれ、一日本人として考えたとき、より大きな問題は、アメリカが考えをまとめて来た時、日本はその向こうをはるほどの考えを持っているかどうかだ。EUはすでに考えをまとめつつある。なぜなら、2013年以降のEU内での排出量取引制度等を始めとする政策パッケージは年内にもまとまる予定だからだ。彼らは、既に自分たちのカードが何であるかを知っている。

地球環境全体のことを考えれば、アメリカとEUという先進国の二極がはやばやと自分たちの考えをまとめてくるのは良いことのはずだ。しかし、日本にとってはそれはあんまりのんびりしていられない状況を意味する。

中期目標を議論する首相直下の委員会は先月立ち上がったばかりだ。2013年以降の国内の気候変動政策をどのようにするかについては、未だ正式な議論は始まってすらいない。国としての中期目標をどれくらいに持ち、国内の政策に何を持つかは、国連交渉での外交上、一体何を自信と確信を持って言えるか、そしてそれがどれくらい他国に対して説得力を持つかを実質的に決める。

彼の国の大統領の演説を聞きながら、「こりゃー日本もうかうかはしていられないぞ」と思った。というか、正直不安になった。