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ポズナン会議の結果について

年の瀬

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気がつけば今年ももう終わり。今年を振り返ってみると、ブログを書いた日数が、今日を入れないで30日くらいしかない。「毎日欠かさず」とは言わないまでも、もう少し高い頻度で書かないと。せっかく、奇特な方がオススメしてくれているのに・・・。

今年最後になるエントリーとして、やはり触れるべきは12月1〜12日に開かれた国連気候変動ポズナン会議だろう。そもそも、このブログのタイトルである「地球環境政治」と「学」の間とは、こういう会議の話を書きたくて付けたタイトルな筈だった。

今回の会議へ至るまでの流れ

日本のニュースでもとりあげられていたので、この分野に関心のある人だったら、会期の頭と終わりくらいの報道はご覧になられたかも知れない。でも、大した成果が無かったこともあり、国連会議の背景をそれらだけから理解するのはなかなか難しい。だから、敢えてそもそものところからの解説をしてみたい。

国連気候変動ポズナン会議は、毎年開催されている気候変動(地球温暖化)問題に関する国連会議の2009年版である。今年は、ポーランドポズナンという場所で開催されたので、ポズナン会議と呼ばれている。ちなみに、「ポズナン」は英語読みで、現地ポーランド語の発音では、「ポズナニ」という方がむしろ正確なようで、日本語の地図や新聞でもどちらかというとそっちがよく使われている。

ポズナンは、場所としてはドイツのベルリンとポーランドワルシャワを結ぶ鉄道の中間地点くらいにある。会期中は最高気温でようやく氷点下を上回る程度で寒く、日が昇るのが遅く、落ちるのが早かった。でも、街自体は、ヨーロッパらしいとても奇麗で印象的な場所だった。会場の風景も含めて写真も撮ったので、イメージの参考に見ていただければ幸い。

さて、早速話が脇にそれてしまったが、今回の会議の位置づけである。これを理解するには、過去からの流れを理解する必要がある。長くなるが、ここでこれを知っておけば来年のニュースの理解もぐっと高まるので、頑張って読んでもらえるとありがたい。

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まず、そもそものさらにそもそもに立ち返ると、気候変動問題、つまり地球温暖化問題に対して国際社会が対策をとることを決めたのは、1992年に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)を採択した時である。ただ、この条約は名前に「枠組」という言葉が入っていることから分かるように、この問題に関する国際社会の取り組みの枠組や原則を定めただけの内容だった。「だけ」というと聞こえが悪いが、それ自体はそれで重要なことである。

そして、1997年の京都議定書で、この問題への具体的な取り組み、つまり、原因である温室効果ガス排出量の削減目標を決めた。ただし、この目標は先進国にしか定められていない。その理由は、温暖化を引き起こしてきたのはまずもって先進国であり、その先進国が最初は率先して対策をとるべきであるという考え*1に基づいていたからである。ちなみに、この京都議定書が採択された会議をCOP3と呼ぶが、これは、Conference of the Parties to the UNFCCC の略で、上述の国連気候変動枠組条約の締約国の、第3回目の会議という意味である。

この京都議定書の中で、昨今話題の日本の「6%」という削減目標は決められた。ちなみに、EUは8%、後に抜けてしまうアメリカは7%の目標に合意していた。

京都議定書の採択の後、その運用ルールを決めるための交渉が続けられるが、2000年に一度、その交渉が頓挫してしまう。細かい説明は省くが、COP6(COP3と同じく、第6回目の締約国会議の意味)で交渉が決裂してしまったのだ。しかも、2001年3月末、これに追い討ちをかけるように、アメリカのブッシュ新政権が、京都議定書を支持しない方針を明らかにしてしまう。世界最大の排出国であるアメリカの離反によって、「もうこれはダメかも」というような危機感が漂ったが、皮肉なことにこれが却って「多国間協力の下でこの問題を解決すべき」という雰囲気を高め、京都議定書の運用ルールの交渉は合意され、2001年のCOP7において、通称「マラケシュ合意」が採択される。

さて、この後交渉はやや落ち着くが、2005年に京都議定書が発効(つまり効力を発揮し始めること)するに伴い、次なる問題が浮上する。それが「将来枠組み(future framework)」と呼ばれる問題である。

京都議定書は、実は2008〜2012年という限られた期間の温室効果ガス排出量削減目標しか決めていない。つまり2013年以降は白紙である。

したがって、京都議定書で定められた目標を達成するための取り組みを行なう一方、国際社会は、2013年以降の削減目標を含む、「将来枠組み」についても議論をすることが求められるようになったのだ。

2005年頃からその「将来枠組み」に関する議論は開始されたが、各国とも「本気モード」での議論には達していなかった。そこの雰囲気が少し変わったのは2007年のCOP13・COP/MOP3からである。COP13というのは、上と同じく第13回目の「国連気候変動枠組条約の」締約国会議という意味だが、COP/MOP3というのは、第3回目の「京都議定書の」締約国会議という意味である。この2種類の会議は同時に開催される。この会議は、インドネシア、バリで開催されたので、国連気候変動バリ会議とも一般的には呼ばれる。

このバリ会議では、バリ・ロードマップというものが採択された。バリ・ロードマップは、いろいろな合意の集合体なので、これが中身だと一言で言い表すのは難しいのだが、1つ重要なポイントとしては、2009年末のCOP15・COP/MOP5で、将来枠組みに合意するというスケジュールを打ち出したことだった。これは、2年間の交渉で世界の将来を決める約束事に合意することを決めたに等しいので、実はそれなりに大事だった。

さて、ここでようやく今回の会議の話である(前置きが長すぎたかもしれない)。

これまでの流れから分かるように、今回の会議というのは、「2013年以降の将来枠組み」に合意するための2年間の国連交渉のちょうど中間地点に位置することになる。

だから、今回の会議は、本来であれば、来年末の世界的な合意へ向けての本格的な交渉のまっただ中、というのが理想のはずである。

転換点?

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「本来であれば」というのは、ご想像の通り、そうではなかったからである。

来年末に世界的な合意が予定されている、ということは、裏を返せば今回の会議では少なくともそれは決まらないということだ。それがゆえ、今回の会議への期待値はもともと低かった。しかも、今年一年のこれまでの会議を振り返ってみると、どちらかというと「意見交換」の色彩が強く、本格的なドロドロとした(?)「交渉」にはなっていなかった。

だから、今回の会議の役目は、「意見交換」モードの議論を「交渉」モードにいかに転換できるか、というところにあった。

その「転換」へ向けての土台作りについては、今回の会議の成果はまずまずだった。来年へ向けての作業計画は作られたし、各国の意見を集約した文書なんぞも作られた。来年の最初の会議は3月29日から4月8日まで予定されているが、ここで、各国のやる気さえあれば本格的な交渉に入ることは可能であろう。

細かい内容を知りたい、という奇特な人は、IISDが発行しているEarth Negotiations Bulletin のSummaryをご覧になられるといいかもしれない。

しかし、必要最低限のレベルには達しつつも、会議の雰囲気は、「来年末に世紀の合意」を達成するにしてはややのんびりしすぎていた。これはやや不安を駆り立てる。

今回の会議がのんびりだった理由

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では、なんで今回の会議は「のんびり」だったのか。

それには、大きく分けて2つの要因がある。

1つは、EUのリーダーシップの不在である。温暖化交渉では、ここ最近は、先進国の中ではEUが交渉を先導するというパターンが定着しつつあった。それの足を一番引っ張るのがアメリカ、間にいるのが日本やカナダ、オーストラリアなどという感じだ(これに加えて通常は、先進国と途上国の議論という別の軸が加わることになる)。

しかし、今回は、EUは国内(「域内」といった方が良いかも知れないが)で一騒動があって、なかなかリーダーシップを発揮でいない状況にあった。EUは、会期中、まさに2013年以降のEU域内での気候変動政策についての議論の最終の詰めの段階に入っており、その議論が紛糾していたのだ。このため、内部で議論が錯綜している部分があり、リーダーシップどころの話ではなかった。EU各国のNGOの人たちなぞは、本国とのやりとりに走り回っていた。

でもなんで国連会議の会期にぶつけてそんな議論をしているのかというと、ちょっと複雑な事情がある。それは、来年、欧州議会の選挙があり、欧州の体制が大きく変わるため、欧州各国はその前に決着を付けたかったというのがある。しかも、今年の後半はフランスが議長国なのだが、来年の1月からは今度はチェコ共和国が議長国になる。チェコ共和国は、よく言えば「現実」路線であるが、悪く言えば気候変動政策については必ずしも前向きでない。このため、EU内部の比較的前向きなグループの間ではなんとかして、フランスが議長をやっている年内に決着をつけたかったという事情があった。この議論が、ギリギリまで長引いてしまったため、最終的には国連会議のタイミングと被らざるを得なかったということがある。結果的には、EU内部の議論も決着がついたのだが、とにもかくにも、こうした騒動の影響もあり、EUは今回はリーダーシップは発揮できなかった。

もっとも、EUのNGO仲間に言わせると、EUのリーダーシップが失われているのは今回が初めてではないので、こういう内部事情がなかったら違ったのかといわれたら、違わなかったかもしれない。でも、こういうドタバタがあったことが、「より」影響を与えたこともあるだろう。

そして、内部で議論が分かれた理由の1つは、これまで気候変動政策に積極的だったドイツのメルケル首相が、経済危機のあおりを食った産業界からのロビーの影響を受けて、立場を後退させたことなどにあったので、経済危機は、こんなところでも影を落としていることになる。

もう1つの「のんびり」の理由は、アメリカにとって微妙なタイミングだったということである。

ご存知の通り、アメリカは今政権移行期にある。オバマ政権が正式に発足するのは1月20日なので、今回の会議にアメリカ代表団として来る人たちは、ブッシュ政権の人たちである。オバマ大統領は「アメリカには常に1人の大統領しかいない」というこということで、自身のチームを今回の会議に送り込むことをよしとしなかったので、アメリカはあくまでブッシュ政権の方針で今回の会議には来ていた。

去り行く政権の代表団と交渉をしてもあまり意味がないので、アメリカに関わることについて本格的な交渉はできない。将来枠組みの主要論点の1つは、アメリカがいかにしてこの体制に帰ってくるかであるので、当然ながら、議論の大部分について、実質的な議論が進められない苦しい状況にあったことにある。

もっとも、政権が変わろうが変わるまいが、議論を進めることができる部分というのはあるものだ。ただ、日本政府に限って言えば、ことアメリカの確たる方針というのは、日本政府にとってはとても重要なので、議論をそもそもあまり進めたくなかったようである。

ともかく、そんなこんなで、メインとなる「将来枠組み」に関する議論は、必要以上にのんびりだったと言わざるをえない。来年もこの調子で行かれたのでは、年末での合意なぞとても無理なので、やや不安になる内容ではあった。

揉めるところでは揉めた

もっとも、「のんびり」といっても、会議はほぼいつも通り(?)最終日の深夜までもつれ込み、決着がついたのは会期最終日の12日ではなく、13日午前3時前くらいだった。

何でそんなに揉めたのかというと、やや細部に関する2、3の論点について揉めた。

中でも、結局、決着を付けることができずに終わってしまったのが、発展途上国での気候変動の影響に対する「適応」対策に関する支援の資金源に関わる議論だった。もっと正確にいえば、「CDMからの”収益の一部”を適応基金の資金源とするという仕組みを、他のメカニズム(JIや排出量取引)にも拡大する」というて提案について議論がされたのだが、話が細かくなりすぎるので、ここでは深く立ち入らない。ただ、「南北」の対立がまた色濃く見られ、今後の交渉に関する不安要素のさらなる1つであった。

来年必要なこと

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来年は、大変な年である。

通常の年であれば、国連会議は年に2回行なわれる。今回やったCOPとCOP/MOP、そして、それらの補助機関の会合(SBと呼ばれる)である(こちらはだいたい5〜6月に開催される)。これが、来年は最低でこれに加えて2回行われ、計4回開催される。場合によってはさらに1回増えて、5回行われるかもしれない。

それらの一連の会合の中で、2013年以降、世界各国がどれくらいの温室効果ガス排出量を削減するのかという削減目標を始めとした将来枠組みに合意をしていかなければならない。

その合意の中では、当然、アメリカの削減目標や、途上国の目標もしくは対策の種類も決定されなければならない。おそらく、全ての事項を詳細にわたって決めることはできないと思うので、コペンハーゲンでの合意は骨格を決める内容になると思うが、それにしても、かなりのペースで交渉をしなければ合意は無理である。京都議定書へ向けた交渉が開始されたのが1995年で、細部のルールまで決まったのが2001年であるという過去の経験から考えても、決して楽観はできない。本気で合意をはかるためには、かなり早い段階から、具体的な議論をしていかなければならない。

日本がそのためにできることは、まず自国がどのような排出量削減を行なっていくのかを示すことだ。それはとりもなおさず、日本自身の中期(〜2020年)の排出量削減目標を示すことにほかならない。こう書くと、「いや、それは交渉カードだから、最初から示すのは良くない」と思われるかも知れないが、必ずしもそうではない。

なぜなら、自国の削減目標を早い段階で示すというのは、交渉の範囲を設定するという効果があるからだ。重要な交渉相手であるEUはすでに立場を明確にしている。そして、アメリカもおそらく新政権はそれなりに早い段階で示してくるし、示唆的な数字は既にオバマ次期大統領の口から出ている。これらの国が先にカードを出してくれば、重要度で劣る日本のとりうる範囲はより狭まる。

過去の京都議定書交渉の経験でも、最後の最後まできちんと自国の立場を示すことができず、結局、日本の考え方には交渉を引っ張れなかったことを考えると、「後にとっておく」というのはあまり賢い選択肢とは言えない。

また、もう1つ重要なのは、早い段階で途上国との信頼醸成に貢献をすることである。将来枠組みでは、現在削減目標を課されていない途上国についても、何らかの形で削減に参加してもらう必要がある。しかし、途上国の側は、先進国が引き続き先導的な役割を果たしていくということの確証がとれるまでは、おそらく具体的な行動の交渉にはのってこない。その象徴が、中期の目標の宣言である。これは、先進国が目標を掲げさえすればそれで途上国がのってくるという意味ではないが、最低限の必要条件であることは確かである。

この背景には、先進国の排出量が増えていえるという状況がある。先進国の1990と2006年の排出量を比較すると、4.7%減っているが、これは90年以降経済的な低迷によって排出量が37%も減っている東欧諸国を含んでの数字である。いわゆる西側先進国に絞って見てみると、排出量は9.9%増加しているのだ*2京都議定書では、先進国全体で5.2%削減をする筈なのに、である。ちなみに、日本の排出量は2006年度実績で基準年比6.2%増加してしまっている。本当は6%削減しなければならないのに、である。

この状況で「途上国も削減を」といってもなかなか上手くいかない。途上国の側からすれば、先進国ができない分を先進国に押し付けるという風に見える。

無論、途上国も国益をかけてこの交渉に臨んでくるので、きれい事ばかりではないが、信頼が醸成された上で交渉が行なわれるためにも、先進国による削減目標の積極的な提示は必要だ。

日本にとっては、正直、高い中期目標を掲げるのは、様々な事情から難しい部分もあろう。しかし、そういう状況下において、あえて高い目標を掲げ、他の議論を引っ張る姿勢を見せ、停滞している議論を前に推し進めるのが、リーダーシップというものではないかと思わずにはいられない。

最後になりましたが

皆さん、よいお年を。

*1:専門用語で「共通だが差異のある責任原則」という

*2:この辺の数字は、FCCC/SBI/2008/12Corr.1にまとめられている