池尾靖志/編著『平和学をつくる』晃洋書房 2009年

平和学をつくる

平和学をつくる

本書は、以前は名前が『平和学をはじめる』だったのだけれど、版を新しくして内容もけっこう変わったことを受けて、名前が変わった。

第7章「地球温暖化防止のための国際協調」を執筆させてもらったので、一応、遅ればせながら紹介しておく。

NGOという職についてからは、国際関係論や国際政治学に関する論文は読まなくなってしまった。今回書いた内容はいつも自分が仕事でやっていることに比べれば、そういう学問的な話に近い。

今回の新版にあたって、私の章は基本的な内容は変わっていないのだけれど、一番大きく変えたのは、後半でのレジーム論の部分。

前は、地球温暖化に関するレジームの交渉過程では、ネオリアリストのグリーコが主張する「相対的利得」の議論だけでは必ずしも説明できない現象が起きており、ネオリベラル・インスティテューショナリズムのヤングが言うところの「不確実性のベール」が故意に作り出された側面があるのではないか、という話を書いた。その辺を、京都議定書で設定された目標と、それを「不確実化」した要素としての京都メカニズムや森林吸収源の役割に注目した*1

でも、今回は、そういうレジームの「発展過程」の話ではなくて、90年代後半から流行っている「有効性」(effectiveness)の議論をとりあげて、無理やり、「有効性」の概念が温暖化のレジームではどういう風にあてはまるかをざっくり書いた。

本当は、この有効性の議論は、当該レジームが実際に機能した結果が無いと本格的分析はしにくいので、温暖化のような現在がまさしく再構成期にあるレジームには向かない議論である。でも、こうした理論が現実にどういう意味を持つのか、国際政治の理論が温暖化のような「唯一無二」の事例に対して何を指し示すことができるのかということを考えるためには有効かと思って、あえてそれに話を移してみた。

まあ、それがどれくらい成功したか、意味があったかと言われると、ちょっと残念な感じの仕上がりかもしれないが(笑)、まあとりあえず、そんな気持ちで書いた章である。

*1:国際政治学をかじったことのない人には意味不明だと思うが、要するに2つの対立する学派を温暖化という事例に当てはめた、というだけで、大したことを書いたわけではない。