ワックスマン・マーキー法案が下院を通過

僅差での通過

今春からアメリカの国内政策議論の焦点だったワックスマン・マーキー法案(American Clean Energy Security Act of 2009: ACES)が下院を通過した*1

219対212という僅差であり、かつ、通過のために必要であった過半数(218)をわずか1つ上回るというギリギリのラインだったようだ。この背景には、当然ながら、このワックスマン・マーキー法案を支持するオバマ政権による強烈なバックアップもあったと推測される。

下院を通っただけなので、まだこれがアメリカ国内での法律になるわけではなく、今度は上院の議論を経なければならない。コペンハーゲンまでに決着がつく可能性がないわけでもないが、厳しいことは確かである。

そうであるにしても、中期目標やキャップ&トレードを含む法案が下院を通ったという事実は、重く見るべきであろう。こうした目標や政策が、実現へ向けてさらに一歩近づいたことは間違いない。

ワックスマン・マーキー法案

ワックスマン・マーキー法案は、簡単に言えば、アメリカの中期から長期にかけての排出量削減目標を含み、かつそれを達成するための各種政策を含んでいる包括的な気候変動・エネルギー法案である。

法案自体は約1000ページにも及ぶ内容なので、要約するのもちょっと難しいが、基本中の基本となる部分だけをとりあげると、以下のようになる。

  • 国全体の目標として、温室効果ガス排出量を2020年までに2005年水準から20%削減、2030年までに42%削減、2050年までに83%削減するという目標が設定されている。これらの目標は、政策的な裏付けがやや弱い、緩い目標という位置づけになっている。
  • キャップ&トレード型の排出量取引制度を導入する。取引制度の対象となる部門は、アメリカの全排出量の約85%を占める。
  • 取引制度対象部門は、2020年までに2005年水準から17%削減(90年比4%削減相当)、2030年までに42%削減(90年比28%削減相当)、2050年までに83%削減(90年比70%削減相当)するという目標が設定されている。こちらは、政策的裏付けるのある確固とした目標という位置づけになっている。
  • この他、適応やREDD、クリーン技術に関する海外支援に関する規定が含まれていたり、国内の再生可能エネルギー/エネルギー効率改善施策が含まれていたりする。

もうちょっと詳しい日本語での要約に興味がある人は、環境省のウェブサイトにある要約が便利かも知れない。英語でも良いという人は、WRIによる解説Pew Center on Global Climate Change による解説が詳しい。

ここで示されている中期目標は、オバマ政権が掲げている中期目標(2005年比14%=1990年比0%)というラインよりはちょっと厳しいが、それでも、いわゆる「25〜40%削減」という先進国全体に必要とされている目標ラインから考えるとやや少ない。なので、個人的にはもう一声頑張ってほしいところなのだが、アメリカの現状ではこれが最大限のレベルなのかもしれない。

この法案が最終的に上院の方でも通れば、それはすなわち、アメリカ・オバマ政権が掲げている中期目標やキャップ&トレードなどの政策が議会のバックアップも得たことになり、よりアメリカが「何をするか、できるのか」というラインがはっきりすることを意味する。

かつて、京都議定書が交渉された時には、アメリカの上院においてバード・ヘーゲル決議というのが出ており、これが、途上国が義務を負っていない議定書には参加しないということを事実上規定していた。これによって、当時のクリントン政権自身が京都議定書を署名しても、(ブッシュ政権になる前から)議会での批准が難しい状況だったことはよく知られている。

その意味で、議会が政権が掲げているポジティブな姿勢と歩調を同じくしつつあるという事実は重い。もっとも、下院の議論と上院の議論はまた質が違うので、上院での議論がどのような展開を見せるかはまだ予断を許さない。

*1:原文を見たいという奇特な人は、H.R.2454というその法案をこちらからから見てください