Carbon Markets Asia の2日目(6月24日)の感想(今更・・・)

なんだか本当に今更の感があるが、一応、「書く」と宣言したので書いておく。本当は、今日というタイミングだとG8&MEFの結果についてコメントすべきだろうけど・・・。

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再び、自分用のメモから特にこれは面白かったという部分だけを前後の文脈を無視して書いているので、けっこう分かりにくいと思うが、その辺はご容赦下さい。

マレーシアDNAの承認レターは時限付き

何がテーマだったか忘れてしまったが、何かのパネルディスカッションの中で、マレーシアのDなからの承認レター(letter of approval)は、時限付きだということが話題になっていた。つまり、一度、ホスト国・マレーシアの承認レターを貰ったプロジェクトでも、何らかの理由で一定期間を過ぎてしまったら、その承認レターを貰い直さなければならない。

なんでそうなのか、という質問に対し、マレーシアのDNA担当者は以下のように答えていた。多くのケースで、承認レターを出すという段階が、唯一DNAがプロジェクト実施者と接するポイントである。それ以降(承認レター発行以降)、プロジェクト実施者がDNAにプロジェクトの進捗を教えてくれることなどない。なので、この承認レターを出すという段階を大事にしたい。

私の解釈が間違っていなければ、これはつまり、プロジェクトの中身をホスト国がコントロールするためのレバレッジは、承認レターを出すという一点にしか存在しないため、それにあえて時限性を持たせることで、自分たちの持っているレバレッジをより強くしておきたい、ということだと思った。

DNAとプロジェクト実施者の関係が(プロジェクトが承認された後は)そんなに懸念が出るほど希薄なのかなというのは、少し意外だった。

モニタリングや検証(verification)への議論のシフト

モニタリングや検証に関わる論点をテーマにしたセッションが1つあった。

興味深かかったのは、最近の傾向として、これまでのCDMプロジェクト実施者にとっての主な関心事が「いかにプロジェクトの承認をとるのか」という点にあったのに対し、現在は「プロジェクトの排出量削減をいかにモニタリングし、実績を検証してもらうか」という点に移ってきているという点であった。

つまり、「いかにして、DOE(指定運営機関)の有効化(validation)を受け、CDM理事会の承認を得るのか」という点に対する関心から、最近は、実際にプロジェクトが進んできたせいか、プロジェクトからの排出削減クレジットの発行を受けるために必要な、排出量削減のモニタリングや、その検証に関わる論点に関心が集まるようになってきたということである。

たとえば、意外と多くのプロジェクト実施者がやる失敗として、モニタリング期間の直後に、クレジット購入者に対してクレジットを受けたわすという契約をしてしまうという失敗があるそうだ。これだと、モニタリングとその後の検証過程で不備があった時に、自動的に契約不履行になり、不利になる。

なんだか、当たり前のような感じもするが、モニタリングや検証が実は手ごわい、という感覚がないと、意外とやってしまうのかもしれない。

PoA(諸活動のプログラム) CDM=プログラムCDMの現在について

モントリオール会議以降、話題になり続けていたプログラムCDMの現状について、UNFCCCの事務局の人からの発表があった。最近、この辺に関するCDM理事会レベルでの議論は追いきれていないので、まとまった形でプレゼンが聞けたのはとてもありがたかった。

プログラムCDMとは、誤解を恐れずに端的に言えば、小さなCDMの寄せ集めを1つのCDMとして登録できる仕組みのことである。1つ、極めて大事なポイントとしては、始まった時点で、全てのプロジェクトが登録されていなくても良いということ。つまり、後から別のCDMプロジェクトをその中に追加してもよいのである。

これがあると、普通だったら、個別にCDM化して実施するには、登録のために必要な作業やら費用やらが多すぎて無理なものでも、まとめてできるかもしれない、という期待が少し高まっている。

しかし、現状といては、UNFCCC事務局の人のプレゼンによると、11のPoAが現在有効化審査中で、2つが既に登録申請が出されているものの、まだ具体的に承認を受けたPoAはないそうだ。

前回の第47回のCDM理事会会合はかなりPoAにとっては重要だったようで、この会合では、これまで懸案とされていた事項に対して、いくつか答えをだすような新しいルールが決定された。

そのうちの1つが、複数の方法論の活用ということだ。これまでのルールでは、たとえPoAでも、方法論は1つしか使ってはダメということだった。これが、今回の決定によって、承認を得れば、複数の方法論を組み合わせて使用することができる。しかし、その方法論の適用は、対象となるプログラムを通じて一貫していなければならない。つまり、このケースではAもBも適用するけれども、あっちのケースではBしか適用しないというのはダメらしい。

また、プログラムに追加される個別のプロジェクト活動(CDM Project Activity を略してCPAと呼ばれる)の追加性の審査については、

  • PoAのPDDにおいて、CPAの適格性要件(eligibility criteria)には、追加性の証明条件も定めておく
  • <.i>CPA のPDDにおいて、当該CPAが、PoAにおける適格性要件を(上記追加性の証明条件も含めて)クリアしていることを示す

という形で行うようだ。

他にもいくつかあるが、これ以上知りたいという奇特な方は、直接、CDM理事会のウェブサイトを見てもらった方がいいかもしれない。第47回関連の文書の中で、Annex 29〜32がそれに該当する。

CDMのガバナンス改革

最後に、私も参加したPost-2012のCDMについて考えるパネルディスカッションの中で、再びご登場された波多野氏の言葉が印象に残った。

簡単にまとめれば、現在のCDMの統治機構の構造は、いわゆる三権分立になっていないから、そうなるようにした方が良いのではないか、という提案だった。

現状、CDMでは、CDM理事会が大きな権限を持っている。COP/MOPによる話し合いが大きな枠組みを与える形になっているが、1月もしくは2月に1回の会議で、ルールを決めると同時に、プロジェクトの承認や却下を決めるのも理事会である。

氏の主張は、その辺をもう少しきっちり、「三権」(行政/立法/司法)を分けた方が良いのではないかという話だった。たとえば、事務局の役割をもっと強くして、いわば行政の役割はそこに任せ、理事会はもっぱら立法(ルール作り)に専念するべきではないか、という。そして、いわば司法に当たるものとして、プロジェクト実施者がプロジェクトに関する決定に関する不服を申し立てることができる機関を別に設置するべきではないかという。

実は、「事務局に強い権限を」とか「不服申し立てができる仕組みを」という主張自体は、前にも国連交渉の中で聞いたことがある。昨年のポズナニ会議の際に、前者については、EUが主張していたし、後者については、スイスかどこかが強く主張していた。でも、それらを「三権分立」につなげて主張されたのを聞いたのは、ちょっと新鮮だった。なんだかそう言われると、少しすっきりと整理ができそうな気がする。

総じて・・・

さて、ダラダラとCarbon Markets Asia で得た知見について書きなぐって来たわけだが、今回の出張は、思いの外楽しかった。イベント自体が終わった後にも、geres(前回のエントリ参照)の人たちと一緒にご飯を食べに行って、そこでまた少し彼らのCDMに関する問題意識を聞くことができたのもよかった。

CDMに関する国連交渉をフォローを仕事としてやりつつも、毎月の理事会にボンまで行ってに参加しているわけでもないし、現場でプロジェクトをやっているわけでもないので、どうしても、CDMという仕組みについては座学の域を出ていない。その矛盾を噛みしめつつ、なんだか悶々としている状態が多かったので、少しでも現場に近い人たちの話を聞けたのは収穫だった。

他方で、国連交渉には国連交渉独特の複雑さがあるので、現場の人はむしろ寄りつかないという変な状況がある。そこで決まっていくことのインパクトは甚大であるにも関わらず、だ。そういうところのつなぎを、政策提言型のNGOの人間としては試みていかなければいけないのだろうなと、そんなことを考えた2日間であった。