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塚本康浩『ダチョウ力』朝日新聞出版 2009年

読書

ダチョウ力 愛する鳥を「救世主」に変えた博士の愉快な研究生活

ダチョウ力 愛する鳥を「救世主」に変えた博士の愉快な研究生活

ダチョウという、一見、足が速くてデカイという以上にとりたてて特徴が無さそうな鳥に関する研究を、見事に世のため人のために結実させていった一研究者のエッセイである。

ダチョウに抗体を作らせ、それをダチョウの生む卵から取り出すという「ダチョウ抗体」にまつわるお話が主である。ただ、一研究者が、自分が好きなもの(=ダチョウ)の研究に半ば無理やりな社会的意義を見いだし、自分の弟子(=院生の「足立君」)を巻き込み、何だかんだと頑張って、世に役立つものを生み出すまでの物語として読んでも面白い。

結構すごいことをやっているのだと思うのだが、著者の気取らない、ユーモラスな性格と、研究対象としてのダチョウへの愛情が本書の端々から感じられ、本書全般を通じてほんわかムードである。

色々と大変なのだろうが、「こういう風に研究できたら楽しいだろうな」と思わされる。

こんなことを言ったら失礼だろうが、本人や「足立君」たちの苦労もほほ笑ましい。ダチョウ牧場でのダチョウの採血の際に、ダチョウの糞を踏んづけてピューマのスニーカーをダメにしてしまったり、ダチョウに求愛されたり・・・。

今でこそ、ダチョウ抗体の製法が軌道に乗っているので楽しく読めるが、本人たちは、当日は相当不安だったに違いない。ようやく量産化にこぎつけたとき、ダチョウ牧場を提供し続けてくれた「小西さん」の反応がこれまたいい。

小西さんは「救世主や!ノーベル賞や!祝賀パーティーはわしが一番最初に開いたる!」と気の早いことを言いだし、牧場内に落ちている鉄パイプなどを拾い集めて、実験用ダチョウの飼育施設などを自分で作ってくれた。」(p. 181)

「まあまあ」といいながらも、こうした期待をかけてくれる人の存在は、著者たちにとってとても有り難く、暖かかったに違いない。

研究者として、とても幸福なあり方だと思う。