民主党のマニフェスト発表

今回の選挙は、ひょっとしたら政権交代がありうるかもしれない選挙ということで、世間的にもきわめて注目度が高い。個人的にも、楽しみ(?)な選挙だ。

気候変動政策の分野においても、現政権が存続するか、民主党が政権を奪取するかによって、その後の政策のあり方が大きく変わるだろうと見られているので、大きな注目を集めている。

今日、その民主党がマニフェストを発表した

気候変動政策にかかわる部分のみをざっと斜め読みしたところ、主張としては特に真新しい部分は無いように見える。

民主党は、参院で独自の地球温暖化対策基本法案を前回と今回の国会において提出しており、個別の主張の中身についても、その法案の中身の方が、むしろ具体的と言える。

なので、特にこれといって特別な話はないのだが、せっかくなので、ざっと見ておきたい。

気候変動政策の位置づけ

まず、マニフェストの中での気候変動政策の位置づけを確認しておこう。

民主党マニフェストは、冒頭に鳩山政権の「5原則」と「5策」が掲げられている。これらの内容は、ざっくり言えば、従来からの主張である官僚依存から政治主導への切り替え、地方分権などを謳った内容となっているという印象を受けた。

つまり、特定の分野がどうのこうのということではなく、政治のあり方について述べているため、気候変動政策は出てこない。

その後に続くのが、「マニフェストの工程表」なる図式だ。主要政策分野にかかるお金と、それを実施するタイミングが平成22年度(2010)〜平成25年度(2013)へかけて示されている。

ここでは、8つの分野が挙げられているが、残念ながら、気候変動政策はそのどれにも入っていない。

ただ、その後に出てくる具体的な「5つの約束」のうちの「雇用・経済」分野に、地球温暖化対策は一行出てくる。

位置づけとしては、最重要事項の一角を占めるというわけではないが、重要事項の1つとしては位置づけられている、といったところだろうか。

暫定税率の廃止と高速道路の無料化

先に「マニフェスト工程表」の8つの分野には気候変動政策は含まれないと書いたが、実は、その8つの分野には、関連のある分野が出てくる。「暫定税率の廃止」と「高速道路の無料化」だ。もっとも、これらは両方とも気候変動政策には逆行する懸念が、一部では言われている。

特に「暫定税率の廃止」は、それ単体で行われれば、単純に言ってガソリンが安くなるわけで、車使用のインセンティブは高まってしまう。以前は、ガソリン価格とガソリン需要の価格弾力性は低いと言われていたが、近年の燃料高騰のおりにはきちんと消費が下がっているようだったので、その逆も、特に税率の低下という一過性でない低下は影響があると考えられる。

「高速道路の無料化」が持つ効果には、両論ある。一方では、昨今の「1000円」現象を見ればわかるように、どう考えたって無料化すれば利用者が増えるから、絶対に排出量だって増えるという主張。

もう一方では、渋滞が減る(無料化ということは、ETCすら必要ないということ)ので、無駄な排出は減るし、これまで、値段が高いがために、無駄に下(国道)を無駄にたらたら走っていた人たちが上(高速)を走るようになるから、むしろ効率の良い走りになるのではないかという主張。

定量的な分析は見たことがないが、個人的には、少なくとも初期においては、利用増による増加要因が効率化による現象要因を上回り、高速道路の無料化によって排出量の増加は免れえないのではないかという気はする。

しかし、暫定税率にしても、高速道路の無料化にしても、(気候変動政策の文脈から離れて)本筋論から言えば実施を否定するのは難しい。

したがって、本来、行うべきは、暫定税率を廃止したとしても、それを相殺するような炭素税がかかていることや、高速道路を無料化しても、安易なマイカー利用が増えないようなモーダルシフト優遇措置(炭素税含む)が組み合わさっているべきであると思う。

「雇用・経済」分野の中に組み込まれた地球温暖化対策

マニフェスト工程表」の次からは、「5つの約束」の具体的な各分野における公約内容の説明がある。

その5番目、「雇用・経済」の中に、地球温暖化対策が出てくる。

ヘッドラインはこうだ。

中小企業の法人税率を11%に引き下げます。
月額10万円の手当つき職業訓練制度により、求職者を支援します。
地球温暖化対策を強力に推進し、新産業を育てます。

前2つに比べると、若干、具体性のレベルが落ちる気がするが、いきなり「中期目標」などという話を出しても、一般の有権者にはわからないことへの配慮かもしれない。

同じにページに、箇条書き項目で以下の2つが挙げられている。

●2020年までに温暖化ガスを25%削減(’90年比)するため、排出量取引市場を創設し、地球温暖化対策税の導入を検討します。
●太陽光パネル、環境対応者、省エネ家電などの購入を助成し、温暖化対策と新作業育成を進めます。

中期目標についてきちんと言及がされている。これは、現政権の立場(2005年比15%削減=1990年比8%削減)とは明確に違うところなので、民主党にとっての違いの見せ所である。ただ、前述の地球温暖化対策基本法案では、排出量取引制度の創設について、2011年という具体的な年が挙がっていたのが、ここでは消えている点が若干気になる。

その後の、「政策各論」において、さらに詳しい内容が出てくる。具体的には、第42項目から第46項目までが気候変動にかかわる。全部引用すると長いので、その項目名だけ抜き出してみると以下のようになる。

  • 地球温暖化対策を強力に推進する
  • 全量買い取り方式の固定価格買取制度を導入する
  • 環境に優しく、質の高い住宅の普及を促進する
  • 環境分野などの技術革新で世界をリードする
  • エネルギーの安定供給体制を確立する

もっとも、これだけでは逆に何も分からないが。

中身を読んでみても、「地球温暖化対策基本法案」以上に、気候変動政策の分野について踏み込んだ内容があるようには思えない。メインとなる一番最初の第42項目のみ全文を引用しておく。

2.地球温暖化対策を強力に推進する
【政策目的】
○国際社会と協調して地球温暖化に歯止めをかけ、次世代に良好な環境を引き継ぐ。
○CO2等排出量について、2020 年までに25%減(1990 年比)、2050 年までに60%超減(同前)を目標とする。
【具体策】
○「ポスト京都」の温暖化ガス抑制の国際的枠組みに米国・中国・インドなど主要排出国の参加を促し、主導的な環境外交を展開する。
○キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場を創設する。
地球温暖化対策税の導入を検討する。
その際、地方財政に配慮しつつ、特定の産業に過度の負担とならないように留意した制度設計を行う。
○家電製品等の供給・販売に際して、CO2排出に関する情報を通知するなど「CO2の見える化」を推進する。

中期の目標が外されることなく、きちんと位置づけられたのは良かったと思う。

法案の内容からずれていたらそれはそれで問題だが、その内容からさらに一歩という感じではない。

また、ここでも、排出量取引制度に関する年次は欠けている。これが、「あんまり細かいこと書いても仕方ない」からなのか「2011年っていうのはやっぱ無理」だからなのかは分からないが。

それから、これは明らかに意図して後退させたのだと思うが、「地球温暖化対策税の導入」は「検討」になっている。法案自体の中にも「国は・・・創設するものとする」(第15条)とあるのに、こうなっているので、若干、気になる部分だ。特に、上の暫定税率や高速道路無料化の件があるだけに。

とりあえず

ざっと見てきたが、内容的には新しいものはないものの、中期目標がきちんとマニフェストの中に書き込まれてきたことは意義深い。これで、自民党や他の政党がどう出てくるかがまた見物である。