各国が掲げている削減目標は「2℃未満」にとって十分なのか?(2)
Climate Action Tracker
さて、ちょっと間が空いてしまったが、前回の続きである。
今回は、Climate Action Tracker を取り上げる。
Climate Action Tracker は、ヨーロッパの著名な研究機関であるEcofysや、Nature に載ったカーボン・バジェットに関する論文で有名な研究者が参加するClimate Analytics、ドイツの研究機関のポツダム気候研究所(PIK)の研究者が集まって実施しているプロジェクトである。Project Catalyst と同様、政策決定者への情報提供をしている。
参加している研究者は、IPCCの報告書作成に関わった人も多く、"25%〜40%"で有名なBox13.7という表の作成に関わった人も含まれる。
彼らは、コペンハーゲン会議の期間中に、各国が出してきた目標の総合評価をしている。
ちょうどタイムリーなことに、共同通信の配信記事で、この研究について紹介されている。
彼らの研究についても、前回挙げた比較のポイント(下記)について、順次見て行こう。
- 「2℃未満」を達成するために必要な温室効果ガス濃度は何ppmを想定しているのか?
- その濃度を達成するために必要な温室効果ガス排出量削減はどれくらいと想定しているのか?
- 各国の目標を積み上げた排出量はどれくらいになると想定しているのか?
- 現状のままでいくと、どれくらいの濃度/温度上昇になると試算しているのか?
- 必要な削減量と現状の積み上げ削減量とのギャップはどれくらいなのか?
1.想定している温室効果ガス濃度
Climate Action Tracker も、Project Catalyst と同様、「2℃未満」にとって必要な大気中の温室効果ガス排出量濃度を「450ppm」と想定している。
しかし、彼らの研究に特徴的なのは、「2℃未満」だけではなく、「1.5℃未満」も対象にしている点である。そして、その場合に必要な濃度は、「350ppm」としている。
2.必要な削減量
必要な削減(された排出)量としては、2020年時点で、世界全体の排出量を44Gt(440億t)に下げられなければならないと想定されている。これは、2℃未満を想定した場合であり、1.5℃未満の場合は、さらに低く、40Gt(400億t)に下げなければならないと想定されている。ちなみに、この2℃未満のための数字は、Project Catalyst と同じである。
そして、BAU(現状のまま推移した場合)の2020年の排出量は、57Gt(570億t)になるという。この数字は、Project Catalyst と比較すると、若干小さい(Project Catalyst は58Gt)。
1990年の排出量は、上述のブリーフィングペーパーには書いていない。仮に、Project Catalyst と同じ36Gt(360億t)であるとすれば、Climate Action Tracker の試算では、世界全体の排出量はBAUでは2020年に1990年比約58%増えてしまうが、これを同約22%増(1.5℃未満なら11%増)に抑えることが必要になる。
3.各国目標の積み上げ
Climate Action Tracker は、各国が出してきた目標の評価について、大きく分けて3つのケースを示している。1つは、先進国・途上国の低い方の目標を主に考慮したケース。2つ目は、先進国・途上国の高い方の目標を考慮した数字。3つ目は、途上国の削減行動について、さらに「楽観的に」(optimistic)解釈したケース。
これら3つについて、順次見ていこう。
まず、先進国・途上国の低い方の目標が選択されたケース。
このケースだと、世界全体の2020年時点での排出量は、BAU比で2.3Gt(23億t)減、つまり、55Gt(550億トン)となる。この時想定されている先進国の削減量は、BAU比0.8Gt(8億t)削減、1990年比6%削減(森林含む;含まない場合は11%)である。途上国については、BAU比で1.5Gt(15億t)の削減(REDDを含む)が想定されている。
2つ目は、先進国・途上国の高い方の目標が選択されたケース。
このケースだと、世界全体の2020年時点での排出量は、52Gt(520億トン)となる。この時、先進国全体では、BAU比2.2Gt(22億t)、1990年比14%削減である(森林含む;含まない場合は19%)。途上国は、BAU比で3.2Gt(32億t)削減になるという。
3つ目は、途上国の削減行動の楽観的な解釈をしたケース。
このケースだと、世界全体の2020年時点での排出量は、48Gt(480億t)となる。この時、先進国全体では、先ほどと同じ、BAU比2.2Gt(22億t)、1990年比14%削減である。途上国は、上記のBAU比3.2Gt(32億t)に加えて、更なる3.6Gt(36億t)削減が見込まれている。
このままいくと・・・?
上の一番目のケースで、700ppm→3.5℃上昇となり、3番目のケースでも、650ppm→3.2℃上昇と試算されている。
ギャップは?
上述の通り、2℃未満(1.5℃未満)達成のために必要な排出量の水準が44Gt(440億t)(40Gt(400億t))であるにもかかわらず、現状の各国の目標の積み上げは、一番楽観的な解釈をしたケースでも、排出量は48Gt(480億t)になる。つまり、一番楽観的な解釈をしたケースと比較したとしても、4〜8Gt(40〜80億t)のギャップが最低限存在することになる。これをどうやって詰めていくのかについて、以下のような提案がされている。
分野 | 「楽観的解釈」ケース | 追加策 | 追加削減量 |
先進国全体の削減 | 90年比19%減、BAU比2.2Gt(22億t)減 | 90年比30%とする | 2Gt(20億t) |
途上国全体の削減 | BAU比6.8Gt(68億t) | BAU比で30%とする | 4.5Gt(45億t)の追加削減 |
森林減少からの排出量の抑制 | 直近の水準から40〜50%削減、BAU比0.7Gt(7億t) [上の途上国全体に含まれる] |
森林減少を2020年までに止める | 2Gt(20億t) |
国際航空・船舶からの排出量 | 2Gt(20億t)? | 予想排出量の半分に抑制する | 1Gt(10億t) |
先進国の吸収源 | ? | 対策の強化 | 1Gt(10億t) |
簡単な感想
おおまかな試算としては、Project Catalyst の試算とかなり近い。ま、Climate Action Tracker 自体、Project Catalyst の試算も参照しているので、当たり前と言えば当たり前なのだが。
加えて、追加的な削減として、具体的に何をすることが必要なのかを、数字を持って記している部分が興味深い。これらを本当に実現できるかどうかは別として、どこまで行けば、というのが見えるだけでも、随分と、今後の交渉で目指すべき地点というのが見えやすくなると思うのだが・・・。
ただ、途上国の排出削減を「楽観的に解釈したケース」というものに、どれくらいの不確実性があるのかが気になるところだ。この辺については、本当は、方法論(methodology)のセクションをもう少し読み込みたいところだが、時間がなくてできていない。
この比較が終わったら、途上国のアクションについて、少し調べてみようかな。