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アメリカ議会上院気候・エネルギー法案プロセスのこれまで

温暖化 海外事情

ケリー=リーバーマン法案の発表

ちょっと前に「歴史的な数日間」というタイトルでエントリーを書いてから、けっこうな日にちが経ってしまった。決着には、「数日」どころではなく、日が必要だったようで読みが浅かった・・・。

昨日12日、ついにというか、やっとというか、アメリカ議会上院のケリー議員とリーバーマン議員が新法案を発表した。前の記事で書いた通り、共和党のグラム議員は抜けたままであるが、いずれは帰ってくることに望みを託しての発表のようだ。

法案の中身については、いろいろな機関がそれぞれ要約やらコメントやらをそれぞれ出し始めている。それらを眺めてコメントするのは少し後回しにして(たくさんありすぎて読み切れないので)、これまでの流れや背景について、おさらいの意味で少しまとめてみた。

今は、法案成立のプロセスのどこに位置しているのか?

そもそも、今回出された上院での法案というのは、全体のプロセスの中でどういう位置づけにあるのだろうか?

少し詳しい人なら、昨年、アメリカは「下院」において、ワックスマン・マーキー法案というのが可決されていることをご存知だろう。

かなりざっくりとした形ではあるが、これまでとこれからの流れをまとめると以下のようになる。

1)下院(House)での可決
  ※2009年6月29日、下院はワックスマン・マーキー法案を219対212で可決
      ↓
2)上院(Senate)での別法案の可決 ← イマココ
      ↓
3)両院協議会(Conference Committee)での両院案の調整案作成
      ↓
4)両院で調整案を再度可決
      ↓
5)大統領が署名=成立

これは、あくまで今回のケースということであり、別の法案プロセスを通ることもありうる。実際、この前通った医療制度改革法案は別の道を辿った。

ここで、いくつか注意をする必要がある。

まず、委員会審議について。

まだケリー=ボクサー法案が話題だったころにGristに掲載された解説によると、上院での審議は、最高5つの委員会が公聴会およびマークアップを行うことができ、それらを統合した法案が作成されなければならない。審議を行う可能性がある委員会は以下の5つ。

  • 環境・公共事業(Environment & Public Works)
  • エネルギー・天然資源(Energy & Natural Resources)
  • 財政(Finance)
  • 農業・栄養・林業(Agriculture, Nutrition and Forestry)
  • 外交(Foreign Relations)

それぞれの委員会において、それぞれの利害関係から修正が入る可能性がある(例:農業委員会で、農業オフセットに関する修正が入る、等)。

それから、必要な得票数について

今年1月19日の上院議席補欠選挙(マサチューセッツ州)で、共和党議員が勝利したことにより、民主党の議席は57となっている。民主党と連携している無所属の2名(そのうちの1名がリーバーマン議員である)を併せても、上院で法案を通すために必要な60に足りない。つまり、最低でも1名は共和党員の賛成が必要になる。これが、「共和党グラム議員」が重要な理由である。

これだけでも充分に難しいそうだが、これに輪をかけて、最近の2つの出来事が事態をさらに複雑にしている。

移民制度改革審議を優先するとの民主党方針に共同提案者のグラム議員(共和党)が反発

1つは、この前のエントリーでも言及したグラム議員の離脱である。

かねてからの課題であった医療保険改革(ヘルスケア)法案が、今年3月21日に下院で可決され(上院は昨年12月に通過)、23日に大統領が署名・成立したことで、「次は気候・エネルギー」との機運も高まっていた。

当初、ケリー、リーバーマン、グラムの3上院議員を共同提案者とする法案が、4月22日のアースデーを記念して超党派で出される予定であった。これが調整の遅れによって延期され、4月26日には発表される手はずとなっていた。

ところが、民主党・リード上院議員( 上院多数党院内総務*1が移民制度改革審議(法案自体はまだ提出すらされていない)を優先することを宣言し、これに反発したグラム上院議員が、共同提案者から降りることを宣言した。下は、4月24日にグラム上院議員から出された手紙の抜粋である(Washington Post)。

“I want to bring to your attention what appears to be a decision by the Obama Administration and Senate Democratic leadership to move immigration instead of energy. Unless their plan substantially changes this weekend, I will be unable to move forward on energy independence legislation at this time. I will not allow our hard work to be rolled out in a manner that has no chance of success.”(

ただし、同じ手紙の中でグラム上院議員はケリーやリーバーマンの努力については賛辞の言葉を贈っており、その後のメディアに対するインタビューの中でも、気候・エネルギー法案を諦めたわけではないことを述べている。

民主党が移民法審議を優先させる理由は、来る中間選挙でのヒスパニック票獲得が目的であるといわれる。

この背景には、4月19日にアリゾナ州上院議会で可決され、23日知事が署名・成立した新移民法がある。同移民法は、全ての移民が外国人登録証を携帯することを義務づけると同時に、警察及び当局に対し、不法移民であるという疑いがあるだけで逮捕できる権限を与えるという極めて厳しい内容を持つ。オバマ政権および民主党は、これに対する反発を強めており、移民法審議を優先させるという政治的な動きに繋がっていると言われている。また、リード議員は今度の選挙へ向けての劣勢が伝えられており、個人的にも、移民制度改革によってヒスパニック票を獲得したいとの思いがあるらしい。

日本ではそれほど話題になっていないが、アメリカのような移民の国にとっては極めて重要な問題であり、それ故に難しい問題でもあるようだ。

メキシコ湾での油流出事故

さらにさらに、4月20日に発生したメキシコ湾での油流出事故が事態を更に難しいものにしている。

ケリー=リーバーマン(=グラム)によって準備されている法案は、沖合いでの資源開発に関する条項を含んでいるため、このメキシコ湾での油流出事件を受けて、原油・ガス採掘のリスクが改めて浮き彫りになったとの指摘が環境団体などから挙がってきている。
 こうした事態受けて、グラム上院議員は、上記の移民制度改革に加えて、この問題についてもしっかり検討するべきとの声明を出している(New York Times)。

“In addition to immigration, we now have to deal with a catastrophic oil spill in the Gulf of Mexico, which creates new policy and political challenges not envisioned in our original discussions. In light of this, I believe it would be wise to pause the process and reassess where we stand.”

しかし、12日の発表へ

こうした諸々の事情にもかかわらず、ケリーおよびリーバーマン両議員は、グラム議員抜きで提案の発表に踏み切った。

今後、移民制度改革・沖合い資源開発問題を乗り越えて、再度この気候・エネルギー法案に対するグラム議員の支持を勝ち取り、上院での法案の可決を得られるかどうかは予断を許さない状況となっている。

もし仮に、中間選挙前に法案が通らなければ、気候・エネルギー法案が通る確率は極めて低くなると言われている。その理由は、今秋の中間選挙では民主党が大きく議席を失うと考えられているからである。1名の共和党員を確保するのにこれだけ四苦八苦しているところで、さらに数名の共和党員の協力が必要となれば、必然的にいろいろな「おまけ」が必要になる。

私個人としては、是非法案に通って欲しい。法案の中身は、決して満足の行くような中身ではないし、アメリカなんてもっとできるじゃないの、と思うのだが、もし今回法案が通らなかったとすれば、今後数年間、アメリカで法案が通らず、世界的な合意もできず、全体として温暖化対策が停滞しかねない。それよりは、今回の法案が、不十分ながら通る方が、世界にとってはよっぽど良い。

厳しい現実ではあるが、だから、今回の法案には是非とも通って欲しいと思う。

こうしたアメリカの動向は、日本にも甚大な影響を与える。

まがりなりにも、アメリカで排出量取引制度を含む法案が通れば、それが良いことが悪いことかは別として、日本での議論にも影響を与えるだろうし、オーストラリアでの議論にも影響を与えるだろうし、カナダでの議論にも影響を与えるだろう。

良くも悪くも、世界の趨勢を握る法案議論である。

*1:アメリカには日本でいう「党首」はいないが、議会におけるリードをとる人間としては 上院多数党院内総務(Senate Majority Leader)が相当する。