国連中心か、貿易交渉型か(続)

baya さんに頂いたかコメントを受けて、もう少し考えてみた。かなり間が空いてしまったけど。

「2国間/地域間の積み上げ」方式のどういう部分がだめなのか。

前にも書いたように、それが全部駄目だとは思わない。特に、今の様に、交渉がやたらと複雑化していて、まるで多次元方程式になっているかのような状況では、「出来るところからコツコツと」ということは、ひょっとしたら堅実なのかもしれない。

例えば、現状でも一部進んでいるREDD(森林減少・劣化からの排出量削減)についての協力などはそうだろう。協力が可能であるという具体的な事例を作り出すという役割を果たすと同時に、REDDのように比較的新しい分野にとっては、世界的なルールを作ってしまう前の知見や経験の蓄積という側面もあるだろう(そんなに時間的猶予がある訳ではないので、せいぜい、ルール作りの予行演習ぐらいにしかならないだろうが)。

REDDに限らず、最近は、交渉の焦点が、適応やこれらを支える2012年までの短期資金(fast finance)に注目が集まるのも、コペンハーゲンで失われた国々の間の信頼を、協力の出来そうな部分での実例を通じて、なんとか回復したいとの思いが、各国にあるからだろう。

だから個別分野で協力の実例を作るのは良いことだと思う。

では、改めて、何が駄目なのか。

それはやはり、削減目標や削減行動の決定であろう。

これだけは、国連の場で決めないとマズイ。

1つは、衡平性の確保のためだ。

前のエントリーでも書いたように、各国の目標のバランスは、全体の中でしか決めることはできない。それが、最終的には政治的な決着となり、なんらかの基準に基づいたものにならなかったとしてもだ。

ただ、これだけだと、極論をいう人は、「アメリカと中国が何するか決めてくれさえすれば、後はいいんでないの?」というかもしれない。この2つの国を合わせれば、世界の排出量の半分弱になるからだ。

この2カ国が重要であることは間違いないのだが、それでも、この2つの国の間で決めた事を、そのまま国際合意とするというのは道義上問題がある。これも前回のエントリーで書いた通り、気候変動の影響を受ける国々に、何も発言権がないのはやはりマズイ。

「でも、結局はその2カ国の間の合意が重要なんだから、裏取引でもなんでも、現実にはそこで決まっちゃうんじゃないの?」と言われるかもしれない。

そうかもしれない。でも、実際の交渉はそこまで単純じゃない(だったらとっくに終わってる)し、国連のみたいな場で、影響を受ける国々からのプレッシャーの下で進む交渉とそうでないものとでは、必然的に違いが出てくる。

他にも、国連の場でなければ決めえないものとしては、途上国支援のための多国間基金に関する取り決めだ。これの資金源やガバナンスのあり方については、国連の下でしか合意はできない。

じゃあ他の論点については、個別に合意していけばよいではないか、ということかもしれないが、上記2つを決めるためには、他の論点も絡んでくるので、結局、他の論点だけ先に、2国間・地域間で先に、というのは難しくなってしまうだろうと思う。それは、不可能ではないが、相当上手く切り出さないと難しい。

たとえば、ブラジルやインドネシアのような国にとっては、REDDがどうなるかによって、削減行動のあり方も随分と影響をうける。REDDについて、先に協力関係の下書きを作ることはある程度できるかもしれないが、そこだけ先行して限定的な国の間で合意を作り切ってしまうのは極めて難しい。

逆にいうと、2国間もしくは地域間の合意をうまく国連レベルの合意の「代替」ではなく、「応援」として使うためには、そうした複雑に絡み合うイシューリンケージをどううまくやり繰りできるか見据えないと上手く行かないだろう。どこにその可能性がありそうかは、まだよく解らない。

今年末のメキシコでの国連気候変動会議では、おそらく大合意はできないという観測が強い。その意味でも、先に進みそうなところの足がかりを作るのは極めて重要なんだけど。