安保理と気候変動

先日の安保理会合は、日本にとっては当然北朝鮮問題が注目の話題だったわけですが、実は、その脇で気候変動の話題も採り上げられました(2月15日)。

といっても、安保理の正式な話題として採り上げられたのではなく、イギリスおよびパキスタンの呼びかけでもたれた特別会合のような位置づけだったようです。私も詳しくは知りませんが。

その場の様子は、Rachel Kyte さんという世銀の方のブログで少し読むことが出来ます

中でも印象的なのは、マーシャル諸島のトニー大臣のお話を書いた下記の部分でしょうか(訳す元気がないので英語のまですいません)。

Perhaps most moving of all, Minister Tony deBrum from the Marshall Islands recounted how, 35 years ago, he had come to New York as part of a Marshall Islands delegation requesting the Security Council’s support for their independence. Now, when not independence but survival is at stake, he is told that this is not the Security Council’s function. He pointed to their ambassador to the UN and noted that her island, part of the Marshall Islands, no longer exists. The room was silent.


我らがClimate Action Network (CAN) 代表のWaelもスピーチをしたようです。CAN International のウェブサイトにプレスリリースが載ってます。OxfamからはTim Goreさんが喋った模様。

こうした、「気候変動を安保理で話す『安全保障』事項に押し上げよう」という動きは、数年前からあります。有名なのはイギリスが推し進めた「気候安全保障」(climate security)という概念でしょう。

ただ、一般の感覚からすると、まだまだ「温暖化と安全保障は違うでしょ」という感じではないでしょうか。

確かに、伝統的に、「安保理が対象とするような安全保障問題」というのは、それこそ今回の北朝鮮の核実験のように、「戦争に関係する、あるいはしかねない事項」というのが一般的な理解だと思います。あるいは、ソマリア紛争のような国内紛争。

ただ、9.11以降のテロが「国と国との戦争」という概念から飛び出たのと同じように、実はそれ以前から、こうした狭い意味での「安全保障」という概念を見直そうと動きはありました。

それはとりもなおさず、一体何を持って「安全(security)が保障された状態」といえるのか、という問いに直結します。戦争は解りやすいので、戦争がない場合だというのは分かり易いですが、最近の世の中では戦争なんてなくなって、安全とは言えない状況はたくさんあります。

たとえば、テロや戦争とはほぼ無縁の南太平洋の島国においては、海面上昇による被害こそが目に見えて生活を脅かす喫緊の危機であり、それがある状態を「安全」とは呼べないだろう、という考え方です。気候変動が巨大なハリケーンを巻き起こし、今までそんなの来なかったようなところに人命を含めた甚大な被害を持たした時、それはただ単に「戦争には関係がないから」という理由で話題にするべきではないものなのか、という問いでもあります。

今回、CANのWaelが言及した事例であれば、2011年にソマリアでの大量の難民が隣国へ逃げ込んだのは、(その時は)紛争のせいではなく、干ばつの後の食糧不足が原因だったと言われています。その原因に、気候変動が一役買っているのであれば、それは人々の「安全」を脅かす脅威とは言えないのでしょうか?それは、「安全保障」のための組織が扱うべき課題ではないのでしょうか?

もう1つは、「気候変動は、戦争を起こすんじゃないか」という考え方です。今回、OxfamのTimは、世界的に発生している干ばつや洪水による食糧生産への影響を事例として挙げたようです。もし気候変動を「一因とする」食糧危機が、社会的に不安定な状況を招き、それが引いては紛争の原因ともなりうるのだとすれば、それは伝統的な意味での安全保障にとっても、十分脅威と言えるのではないか、という考え方です。

前者の「安全保障」という概念自体を広げる考え方も、後者の伝統的な意味での安全保障に影響を及ぼすという考え方も、両方とも、まだまだ主流派になったとは言い難い考え方だとは思います。安保理が、気候変動を脅威として見なして重大決定を出すとは、残念ながら現状では、正直、まだまだなかなか想像が難しいです。

ただ、人々にとって何が安全なのか、戦争に繋がってしまうような紛争の根源は何なのかを考えることのきっかけにはなります。

また、逆に言えば、世界の政策決定者たちも、「戦争・紛争を間際で防げればそれで安全」なんてナイーブな考え方を持っている人はもはや稀でしょう。テロであれば、紛争であれ、その背景には、社会的な不安定があることに、もう誰だって気がついています。問題は、そこからもうちょっと先に進めるか。どう進められるか、でしょうね。