NY国連気候行動サミット(UN Climate Action Summit)と、小泉環境大臣のスピーチ

結構大きく取り上げられた国連気候行動サミット

育休中につき、しばらく気候変動系のニュースを遠巻きに眺めながら過ごしていたのですが、9月23日に開催された国連気候行動サミット(UN Climate Action Summit)は、NHKのニュースでもとりあげられるなど、結構、一般的なニュースとして扱われたようで、個人的にはちょっと嬉しく思ってました。 これについて、少し思うところあり、すごい久しぶりにブログを書いてみることに。

網羅的に見たわけじゃありませんが、国連気候行動サミットについての報道の多くは、

  • スウェーデンの16歳の活動家・グレタ・トゥンベリさんのスピーチ
  • 小泉環境大臣のスピーチ
  • 77カ国が2050年までに実質ゼロを宣言したこと

に焦点を当てていたようです。

中でも、トゥンベリさんのスピーチは多くの人に届いたようです。彼女、だいぶ日本でも有名になってきましたね。彼女のスピーチは、この1年でもうだいぶ聞きなれた感はありますが、それでも、政治的配慮なぞ振り払って、ああいう鋭いメッセージを大舞台で明確に打ち出せる姿は眩しく見えます。

余談になりますが、一部の方々は、あれが環境NGOのお膳立てだと言っている人がいるようですが、プロの環境NGOからしてみても、思わぬところで火がついているのが彼女のすごいところなのです。プロの環境NGOは逆に「なんでうちらああいう風に人の心掴めないんだろ」って反省しているくらいです。火がついてから、彼女のすごさにのっかった環境NGOなり業界の人なりはいると思いますが・・・・。

対して、小泉環境大臣のスピーチに関しては、気候変動問題には、「セクシー」にという部分が強調されていて、メディアの報道そのものはともかく、それに対するネット上の反応は結構、批判的、というか、嘲笑するかのようなコメントが多かったように思います。

小泉環境大臣の「セクシー」発言よりも気になること

いくつかのニュース記事を眺めていると、一つのきっかけは下記のロイターの記事のようですね(英語)。

www.reuters.com

どこかに実際の発言の動画がないかなと思って少し探してみたら、ANNnewsのYouTubeチャンネルに抜粋動画ありました。


「気候変動問題はセクシーに」小泉大臣が国連で演説(19/09/23)

正直、これを見ても、私は「まあ確かに、今の若い人には、ポジティブなイメージで関心もってもらうって大事よね」というくらいに思い、特に気にするようなポイントではないと感じました。ロイターの記事で指摘されているように、具体性をもった行動につながらないと意味がないというのはその通りで、その点で批判はされるべきかもしれませんが、歴代の環境大臣も、こういうスピーチをどこかでやった後に気候変動対策について具体的に何かした人は少ないので、小泉環境大臣が特別という感じもしません。

英語で言う「セクシー」は、「カッコいい」「おしゃれ」という意味も多分に含み、それがないと日本の若い人たちが動かないというのは、悲しいかな、本当だと思います。こういう問題を真面目に語り、真面目に取り組むということは、なんだか「ダサい」もしくは「ちょっと暑苦しい」というイメージは、確実に存在しますし、真摯なメッセージのみで動くのであれば、グレタさんのメッセージは1年前から存在しているのですから。

それよりもちょっと気になったのは、そうした報道において、今回のニューヨークの国連気候行動サミットの意義付けが特に語られていないことでした。今回のサミットで意図されたことがろくに語られないことの方が、より問題だと思います。

今回のサミットの位置づけ

端的に言えば、今回の国連気候行動サミットで期待されていたのは、気候変動対策に関する目標の引き上げです。業界では、これを「野心(ambition)の強化」と呼んだりします。

このことは、今回のサミットのオープニングのプレスリリースにも明確に書かれています。以下抜粋と私のざっくり訳&強調です。

「国連の試算によれば、科学から求められる水準である、1.5℃に気候変動を抑制し、既に世界中で発生している気候被害を避けるためには、世界全体の取り組みを3〜5倍に強化しなければならない。(”The UN estimates that the world would need to increase its efforts between three- and five-fold to contain climate change to the levels dictated by science – a 1.5°C rise at most – and avoid escalating climate damage already taking place around the world.”)

(グテーレス国連事務総長は、)「『各国政府はこの場で国別目標(NDC)を強化するということに真剣であることを示す必要がある。都市や企業は・・・(”He said, “Governments are here to show you are serious about enhancing Nationally Determined Contributions under the Paris Agreement. Cities and business are …”)」

多くの国々は、このサミットの機会に、 2030年までに少なくとも45%の排出量を合同で削減することを目指して、それぞれが2020年までに、国別目標(NDC)をどのように更新していくかのステップを示すと同時に、今世紀半ばまでに炭素中立を達成するような国毎の戦略を準備していくかを示した。(”Many countries used the Summit to demonstrate next steps on how by 2020 they will update their Nationally Determined Contributions (NDCs) with the aim to collectively reduce emissions by at least 45 percent by 2030 and prepare national strategies to achieve carbon neutrality by mid-century. “)」

文中にある国別目標(NDC)とは、パリ協定の下で、各国がそれぞれ掲げている排出量削減目標で、多くの国が2030年を目標年とした目標を掲げています。たとえば、日本は「温室効果ガス排出量を2030年度までに2013年度比26%削減する」という目標をかかげています。

上述のような目的意識は、別にサミット当日に発表されたわけではなくて、サミット開催が決まった時からずっとあるものです。たとえば、3月にグテーレス国連事務総長が、英ガーディアン紙に寄稿した下記記事にもそれは明確にかかれています。

www.theguardian.com

世界は、2015年のパリ協定採択以降も、四苦八苦しています。

パリ協定がかかげている世界の平均気温上昇を「2℃より充分低くおさえ、1.5℃に抑える努力を追求する」という目標に必要な水準に、現状の世界各国の取り組みは全く届いていない、というのはよく知られています。

今回は詳しい説明は省きますが、この必要な水準に達しているのは世界の中でもごくわずかな国のみで、日本も含めてメジャーな国はほぼどこも必要な水準に達していません。

パリ協定の下のスケジュールでは、ほとんどの国は、最低限、2020年3月までに、現在の2030年目標を見直して提出することになっています。これは、パリ協定が採択された時のCOP21の決定(パラグラフ23〜25)において決まったことです。そこでは、関連する国連気候変動会議の「9〜12ヶ月前」に提出しなさい、と書いてあり、通常、毎年の国連気候変動会議は12月頭に開催されるので、早い国は、おそらく今年の会議中にも発表してくると思います。

COP21決定の文言上は、再度提出する目標は、今までの目標と同じでも構いません。ただ、これらの決定が書かれた精神は、明らかに、「目標足りてねーから、みんながんばろうぜ」というものであったため、少なくとも、同じ目標を再提出した国が「先進的」と見られることはありません。

どの国も、一度決めた目標を見直して強化する、というのは非常に難しく、また、「自分だけ」やるというのはハードルが高いものです。国内の反対勢力からは、「なぜ我が国だけが努力しなければならないのだ」というツッコミを受ける可能性が高いなどの理由があります。

そのため、みんなで「目標強化をします!」といいやすい「舞台」を用意する、というのが、今回の国連気候行動サミットの、大事な意味でした

この辺の、「本来の国連気候行動サミットに込められた意味」に対して、「日本の代表たる小泉環境大臣が何をしたのか、しなかったのか」という点について、本来は評価があるべきだと、個人的には思います。

サミットの意図に日本政府は応えていない

その点からみると、やはり「セクシー」でないといけないというスピーチをするだけでは、不充分ではあります。ただし、それは小泉環境大臣だけの責任にするのはちょっと酷な話です。そもそも、国の削減目標を変更する意思を示すというのは、国内的にはかなり調整が必要なことで、それは9月頭に就任した大臣が調整なしにいきなり発表できることではありません。

本来は、このサミットで何かを打ち出すつもりであれば、今年(2019年)始めから、国内的な準備がされていなければできない話です。そんな素振りは、残念ながら一切ありませんでしたし、先の選挙でも気候変動を語る人も、それをイシューとして取り上げる報道もほとんどありませんでした。ですから、これは新任の大臣云々という点をこえて、まず日本政府全体として、そもそも、国連気候行動サミットという舞台に、準備もせずに手ぶらで臨んでしまったということになります。

このことをふまえ、今後、国内での気候変動対策の位置づけをもうちょい上げて欲しいなと思う今日この頃。