2020年のエネルギーおよびCO2排出量に関するIEAの推計

先日の記事ではCarbon Briefによるまとめをとりあげましたが、この間に、IEAが本年のエネルギーおよびCO2排出量に関する見通しを出しました。

www.iea.org

CO2排出量に注目してみると、IEAの見通しでは、2020年の年間排出量は2019年比で約8%、量にして約26億トンもの減少になるようです。ただ、この削減はあくまで一時的なもので、同見通しでも、「経済を回復させるための投資が、よりクリーンで、よりレジリエントなエネルギーインフラに向けられなければ、排出量のリバウンドは減少を上回るかもしれない」と指摘されています。

エネルギーへの影響

少し詳しく見てみます。

IEAによれば、2020年の第1四半期の実績において、化石燃料需要の中で大きな影響を受けた順番に並べると、石炭、石油、ガスとなるようです。

石炭への影響が大きいいのは、3月までの段階では、石炭を主な燃料源とする中国が一番大きな影響を受けたからとのこと。次いで石油への影響は、モビリティ(輸送用燃料)と航空機燃料の減少が大きいとのこと。これは、一般の私たちからしても想像しやすいですね。これらに比較すると、天然ガスへの影響は比較的緩いようです。

これに対し、2020年通年を推計した場合、最も大きな影響が出るのは石油、次いで石炭、天然ガスとなる模様。世界全体でのエネルギー需要は前年比6%の減少で、これは絶対量での減少としては過去に例がない落ち込みです。前年度からの減少率(%)としては70年ぶりの下落(第2次大戦の方が減少率は大きい)となります。

CO2への影響

これに伴うCO2排出量の減少に関してみると、2020年通年での落ち込みは、冒頭でも述べたように2019年比で約8%、量にして約26億トンもの減少になるようです。これは、CO2排出量の減少率としては過去に例がない落ち込みで、リーマンショックの時の6倍以上になるとのことです。

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IEA:世界のCO2排出量の変化(1900〜2020)

今回の削減率と1.5℃に必要な削減率の関係

ちょっと細かい話になりますが、先日の記事で取り上げたCarbon Briefによる推計は、当初(4月9日)、4.4%(約16億トン)の減少という推計でしたが、その後(4月15日)さらにアップデートされて5.5%(28億トン)という推計になりました。

その後、IEAの見通しが発表された時点で、Carbon Briefは「IEAのデータの方がより最新のデータを引いてます。自分たちのが75%の排出量しかカバーしていない推計であるのに対して、IEAは全部カバーしているよ」という追記をしています。

なので、今後はIEAのデータを参考にするのがよいかもしれませんね。

実は、Carbon Briefは、記事において、推計された大きな減少幅(5.5%)でも、昨年UNEPが出したEmissions Gap Report 2019で示された「1.5℃を達成するために必要な年削減率=7.6%」というのに届かないので、対策の手を緩めてはならない、という評価をしています。

 

ただ、上記IEAの推計によれば、年8%の減少ですので、1.5℃に求められる減少率とほぼ同等といってもよいでしょう。だからといって別に「対策の手を緩めてはならない」という結論が変わるわけじゃありませんが。また、UNEPが計算しているのはCO2以外の温室効果ガス排出量全体で、IEA(およびCarbon Brief)が計算しているのはCO2のみだという点は若干注意する必要があります。

こういうのを見ると、「こんなに経済がダメージを受けないと1.5℃に必要な削減量はできないのか!」と憤慨する人もいるかもしれませんが、正確には「今のままの燃料構成や、エネルギー効率を前提とするなら、そうなっちゃいます」ということなので、そういう印象を植え付けるだけの議論はやめて、むしろ「燃料構成やエネルギー効率をもっと改善しましょうね」という議論にシフトしていく方が冷静だと思います。それが、冒頭の引用でIEAも指摘していることだと思います。