城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』 光文社新書 2007年

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

最近では、「新卒で就職した人のうち、3人に1人が入社後3年以内に辞める」というのは、一つの常識となっているらしい。
私も、どこで聞いたか忘れてしまったが、なんとなくそうだということを聞いたことがあって、それで、本書のタイトルに惹かれた。
そういえば、この前、通勤電車の中のつり革広告でも、そのことを逆手にとって、「3年で何ができるか」をキャッチコピーにした転職サービスの案内があったのを見て、そんな時代になったのかと感心した覚えがある。また、これの元データを拾ってみたくて、ちょっと検索してみてたまたま見つけた『就職四季報』のウェブサイトでは、就職を検討している学生へのアドバイスとして、「先輩たちが指摘するように、【3年後離職率】は就活をする上で最重要データのひとつです」という記述まであった。

そういう状況を指して、「最近の若者が忍耐力がない」とか、「企業に幻想を頂いている」とかいう話もちらほら見聞きする。

たしかに、私自身の身の回りを見回してみても、同世代の友人の半分くらいが、既に職場を変えている。ただ、彼らはほとんどのケースにおいて、「理想と違ったから」辞めたというよりは、新しい職場の方が給料が良いとか、よりやりたいことが見つかったとか、そういう感じで移って行ったようである。

本書では、日本で長らく続いてきた年功序列という制度の前提が既に崩壊し、レールに乗ったとしても将来が約束されていないにもかかわらず、その制度が無理やり維持されることによって、現在の20代、30代の将来が奪われている、ということの説明がされている。

著者は、別に年功序列という制度が根本的に悪だとか決めつけているわけではなく、その前提として、企業が成長を続け、上のポストがきちんと用意され続けることが必要であるということがもはや成り立たなくなっている現状を指摘し、その結果として、年功序列という制度が持つ陰湿な側面が様々な形で若者にひずみをももたらしているということを指摘している。大手企業の元人事部の人ということで、書いてある内容には説得力がある。

私も、今の職場に就職してもうそろそろ4年が経つが、こういう話を読むと、主に同世代の話であるということもあり、人事制度というものが持つ役割について、少なからず考えさせられる。人事制度というのは、その組織で人をどのように育てていくのか(いかないのか)、そして、どう組織として成長していくつもりなのか、ということに対する考え方があらわれるものなのだということが、なんとなくではあるが分かったような気がする。そして、今、日本が、人口減少社会へ突入するなど、大きな移行期にあって、もう一度見直すことを求められている制度の一つでもあるのだろう。

私の職場は、一応、給料が役職と年齢で決まるという意味では年功序列といえなくもないが、それがどーのこーのとを言うほど組織がでかくないので、それによる弊害もなにも特にない(と思う)。規模的には中小企業に近いので、本書で暗黙に前提とされている大企業の年功序列とはまた少し違うだろう。

NGOというと専門職に近いので、成果主義ではないのか、と思われる人もいるかもしれないが、そうではない。職業として比較的新しい分野ということもあり、いまだに、そもそも「成果」を測るモノサシとして適切なものがない、というのが大きなネックになっていると思われる。

本書の中で、1つの解決策として書かれている「複数キャリアパス」が準備されるべき、というのは、そうだろうなと思う。特にNGOという職業にいるからかもしれないが、今後は、キャリアの延ばし方について、多様な形があってよいのではないかと思う。とういか、あってほしい。無論、その中に位は、伝統的な年功序列もあっていい。本書でも指摘されているが、技術を習得した職人を育てるためには、長くじっくり育てる仕組みが必要な部分もきっとあるだろう。

ただ、NGOという業界に、どういうキャリアパスがあるのかは、正直今の私にはよく分からないが。