排出量取引制度に関する6つの流れ

2月は中旬までとても忙しかった後遺症で、気がつけば1回しか更新していなかった。ちょっと気を抜けばあっという間に時間が経ってしまう。

世間では、ここ1ヶ月ほどの間に気候変動政策をめぐる分野で色々な動きがあった。特に排出量取引制度に関する分野では、合計で6つの変化が見え始めてきた。

昨年から続いている国内の気候変動政策の見直し(京都議定書目標達成計画の評価・見直し)の最終報告の中では、排出量取引制度や環境税が、前回の2004年度とほぼ変わらないような位置づけにとどまり、実質的には導入が見送られることが年末あたりからほぼ確実視されていた。事実、2月29日の内閣の地球温暖化対策推進本部にて了承された最終報告案では、両者とも引き続き「検討すべき課題」という位置づけにとどまっている。

これにもかかわらず、というか、こうなったからこそ、というべきかは分からないが、排出量取引制度については、行政・議員・地方自治体という3つの場所において動きが見え始めてきた。

官邸

1つは、官邸の下に有識者会合として設置された「地球温暖化に関する懇談会」である。これは、洞爺湖サミットを見据えて、低炭素社会の実現を議論するために設置されたものだが、その中の1つのトピックとして、排出量取引制度というものが入ってくるだろうと言われている。メンバーには、東電勝俣社長、新日鉄三村社長、奥田前経団連会長(現トヨタ相談役)といった経済界の重鎮のほか、環境分野では良く知られているUNEP FI特別顧問の末吉氏やイーズ代表の枝廣氏も入っている。

東京都

2つ目は、東京都が独自に打ち出した気候変動対策方針の中で、実施しようとしている排出量取引制度である。東京都は、以前から地球温暖化対策計画書制度という独自のきめ細やかな制度で国の政策の一歩先を行っていたが、今度は、さらに一歩進めるべく、2020年までに温室効果ガス排出量を2000年比25%削減という目標を掲げている。それを達成する具体的な政策として、大規模排出源に対する排出量取引制度の導入を企図している。

経産省

3つ目は、経済産業省が設置した排出量取引制度を中心トピックとする研究会である。正式名称は「地球温暖化対応のための経済的手法研究会」という。これまで、経済産業省としては第一約束期間からの排出量取引制度の導入については反対をしてきたが、2013年以降については態度を保留してきていた。それが、今回、2013年を見据えて、あえて制度設計にまで踏み込んだ議論をしようという姿勢が出てきたことは、1つ大きな動きであるといってよいだろう。

環境省

4つ目は、環境省が開催している「国内排出量取引制度検討会」である。実は、この研究会は第1回の際は「自主参加型」というのが名称の頭についていたのだが、上述のような流れをうけて、第2回については「自主参加型」がその名称からとれた。「自主参加型」に限らず、本気で国内排出量取引制度導入の議論ができるようになったということなのだろう。

民主党

5つ目は、民主党の地球温暖化対策本部設置(岡田克也本部長)である。現在、「ねじれ国会」といわれるように、民主党が参院をとっているため、少なくとも参院であれば法案を通すことが出来る。そうした状況を活用して、排出量取引制度の設立等を含む独自の温暖化対策に関する法案を提示する予定だ。自民党との違いを明確にしようという狙いがあると思われる。

自民党

6つ目は、上述のような民主党の動きにやや刺激を受けたのか、自民党内での排出量取引制度に関する勉強会(「温室効果ガスの排出量取引制度に関する勉強会」)の設置の動きである。COP7でマラケシュ合意が採択された当時、環境大臣だった川口順子議員が自民党政務調査会の環境調査会会長として、エネルギー戦略合同部会の深谷隆司会長との共同開催という形で数回にわたって開催すると報道されている。これを受けて、自民党が全体としてどのように動いていくのか(いかないのか)は今のところ不明。

排出量取引制度という制度の役割に期待を寄せるものとして、こうした動きが複数出てきたこと自体は歓迎するべきだが、どこかで連携がとれないと、またごちゃごちゃになるのではないかという一抹の不安もある。もっとも、これら全てが実のあるものへと結実していくかどうか自体が不明な現状においては、そのような不安は杞憂でしかないかもしれないが。