胡錦涛主席と福田首相の日中共同声明について

先月は海外出張続きだった。

前半は国連会議と内部の会議のためにバンコクに、後半は政府関係の出張でヨーロッパとアメリカに行っていた。
その時のこともほんとはここに書ければよかったのだけれど、色々と微妙なので書くのを控えたら結局何も書かないでここまできてしまった。

さて、江沢民前主席以来10年ぶりらしい、中国・胡錦涛主席の来日が新聞各紙のトップを飾っている。パンダだガス田だギョーザだと色々と話題はあるものの、個人的に気になったのは、やはり気候変動に関する共同声明

全部コピーするとちょっと長すぎるので、気になった点だけ以下にちょっとコメントしてみる。

日本側は、上述の目的【筆者注:条約2条の究極目的】の実現のためには、世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年には少なくとも半減しなければならないとの見解を示した。中国側は、日本の見解を留意し、各国と共に、気候変動枠組条約の究極的な目的を実現させる方法及び措置を検討していくことを表明した。

ここは、日本側として世界全体の排出量の「少なくとも半減」に言及したのに対して、中国側は「日本の見解を留意し」という表現にとどまっていることが目に留まった。これは別に新しい話しでもなんでもないが、中国としては、「少なくとも半減」の必要性を認めれば、必然的に自国の排出削減“義務”の話しへと議論が移行する可能性があるので、安易にイエスといえない姿勢が出ているのだろう。これが、現状でもまだ変わっていないことが確認できる。

双方は、バリ・ロードマップで確認した、現在、2012年まで及び2013年以降の実効的なプロセス及び枠組みを強化する交渉に積極的に参加することで、2009年末コペンハーゲンで行われる気候変動枠組条約および京都議定書の締約国会議で結果が出せるようにするとの共通認識に達した。

新聞等でもこの部分は、下記のセクター別アプローチの部分と並んで取り上げられていたが、いわゆる2009年までの「将来枠組み」合意へ向けて「積極的に」交渉をすることが確認されている。これは少なくとも良いことには違いないが、現状の国連交渉を見る限り、ここで双方が反対をする理由は見当たらず、違う表現があればそっちの方がニュースであったろう。

逆に気になったのは、さりげなく「2012年まで」という言葉が入っている点。これはバリ・ロードマップでの表現に倣ったのだろうが、つまり、中国側としての「現状の体制の中で先進国がコミットしていることも」きちんと強化しなさいよというメッセージが入っているととるのは、穿った見方だろうか。

そういえば、「バリ・ロードマップ」という言葉を、バリ会議”以後”に聞いたのも久しぶり。しばらく、「バリ行動計画」という特定の文書を指す言葉が、よく使われていたのだけれど、これも、議定書の方のプロセスを含める意味で「ロードマップ」という言葉が使われいるのかな(だとしたら良いことだ)。

日本側は、セクター別アプローチが国別総量目標を確定するのに重要な意義を有している旨表明した。中国側は、セクター別アプローチが排出削減指標又は行動を実施する重要な手段であると表明した。双方は、セクター別アプローチの役割につき更に検討を進めることを表明した。

これが、(この日中共同声明に限らず)昨今話題の「セクター別アプローチ」に関する部分。報道では、日本政府が提唱しているセクター別アプローチについて、中国側も重要だと言ったというような雰囲気でかかれているが、はたしてそう素直にとれるだろうか。

日本政府が言っているセクター別アプローチという言葉には、概して2つの含意がある。1つは、国別総量目標を”公平に”設定するための方法としてのそれ。もう1つは、国際的に対策を進める手段としてのそれ。後者を特にさす時には「協力的」という言葉が入ることが多い。詳しい内容は、この前のバンコクの会議の時に日本政府が提出した意見の中にある(この文書の中)。ただし英語のみ。日本語版もどっかにはあると思うのだけど)。

ここでは、字面だけを見れば、日本側は前者を意図していると読める。でも、たとえ将来枠組みにおいても中国がいわゆる国別総量目標に合意するとは考えにくいから、なんとなく変な感じもする。また、中国側の表現は、良く読むと「指標」または「重要な手段」ということで、あくまでツールとしての見方が強調されている。その上で、双方は「役割につき更に検討を進める」とある。

もともと、日本政府が言わんとしてるセクター別アプローチのコンセプトは、外部には極めて分かりにくい。このため、セクター別アプローチということに関して、意義を認めるというような話が出てきたとしても、それがきちんと合意された内容なのか、同床異夢なのかはやや判断が難しい。今回もしかり。

セクター別アプローチに関する議論は、また暇があればきちんと書いてみたいが、少なくとも、この時点での意義は、この言葉が入って議論が進むとういことが確約されたということ以上のものはないと個人的には思う。それ自体は、良いことだとは思うけど、きな臭い話もあるので警戒は必要だと思っている。

この他、注目すべき部分としては、環境省が一生懸命勧めようとしている「コベネフィット」という言葉がさりげなく入っていたり、技術協力の分野の中に、CCS(二酸化炭素回収・貯蔵)が入っていたり、クールアースパートナーシップの文脈で日本は「「中国気候変動国家計画」の実施の促進について、支援する用意があること」と書いてあったりすることだろうか。

CCSは、つい最近、グリーンピースがやっぱりこの技術には期待できないというレポートを発表したばかりだが、世間的には活用の方向へと流れている。私も、判断が難しいところではあるが、基本的には使わざるをえない技術ではあると思っている。難しい課題がたくさんありすぎるのは事実だけれども。ちなみにグリーンピースのレポートのポイントは、ものすごく乱暴にまとめれば「いろいろ問題があるし、たとえそれを乗り越えていくとしても、結局必要とされる大幅削減のスピードに間に合う技術じゃない上、エネルギー・ペナルティー問題があるから、結局効率悪化を招くよ」といったところか。

さて、総じて見ると、こうしたバイの交渉でちょっとずつでも話を前に進めようという姿勢があるのは、基本的には良い外交姿勢だと思う。特に中国との関係は、日本が重要な貢献を果たすべきところであるという意味では。もうちょっと欲を言えば、技術協力の分野等にもう少し具体性があった方がよかったような気がするが、首脳レベルの共同声明であればここまでが限界かもしれない。