Carbon Markets Asia の初日(23日)分の感想

最初の印象

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6月23〜24日に出張で行ってきたCarbon Markets Asiaの感想を初日と2日目に分けて書いておこうと思う(初日の感想を書いていたらやたらと長くなったので)。

初日は自分のプレゼンがないので、比較的ゆったりと他の人の発表を聞いていることができた。

カーボン・マーケットは気候変動の緩和とビジネスが直接結びつく分野であり、その特徴ゆえに時として敬遠される。ただ、私個人としては、環境なんか気にしない人ですら、気候変動対策をせざるをえないような環境を作り出さない限りこの問題を解決するのは難しいと思っているので、関心を持ってフォローしてきた分野だ。

Carbon Markets Asiaというイベントに参加するのは今回が初めてだが、印象では、参加者はETS関係者というよりも、ほとんどの参加者がCDM関係者であるようだ。アジアという開催地域を考えれば、それもある意味当然といえば当然だが。

Point Carbon がやるCarbon Expoのように大掛かりなものではなく、基本的にはホテルの会議室を使って行う比較的こじんまりとしたイベントだ。参加者の数は50名くらいといったところか。

1日のセッションの中でもいろいろなプレゼンテーションを聞くことができた。

若干散文的になるが、今日の発表の中で印象に残ったことをメモ代わりに書き残しておこうと思う。半分以上、自分用のメモとして書きなぐっているので、この分野のジャーゴンに馴染がない人には意味不明かもしれないが、ご了承頂きたい。

VERの出所

現状、VER (Verified Emission Reduction) の多くは、登録前のCDMプロジェクト(pre-registered CDM projects)から来ているという話があった。その登録前のCDMプロジェクトから来るVERの追加性に関わる疑問が一部問題視されている。たとえば、あるプロジェクトが今年の4月から始まっているが、CDM登録時のクレジット期間は今年の10月であったとすると、その半年間はクレジットはVERとして発行される。ただ、本来であれば、そもそもクレジット期間の開始を4月にすべきではないか、という議論がある、とのことだ。

ちょっとよく分からん部分もあったので、後でもう一度立ち戻って勉強し直さないといけない。

geresの発表

geresというNGOからの発表が面白かった。彼らとは、昨年のポズナン会議の際にも会っているのだが、社会的な目的(例:貧困削減)のためにCDMを実施している面白いNGOだ。

発表の中で印象に残った言葉として、"CDM does not fit for people "too poor to pollute." というのがあった。日本語では、「CDMは、貧しすぎて排出すらできない人々のためにはできていない」とでも訳すべきだろうか。

非再生可能バイオマスからの転換プロジェクトがCDMの中で十分に認められないという有名な事実から、CDMの持つ矛盾を指摘していた。

CDMの2つの目的のうち、持続可能な開発への貢献という部分が必ずしも十分に重視されていないという現実は、多くの人々が認識している。

ただ、難しいのは、それをどれくらい、CDMという仕組みに期待するべきかという点だ。

CDMという仕組みそのものの中に、持続可能な開発への貢献ということが組み込まれなければならないと主張することと、CDMが、途上国の開発問題に直接的に結びつかなければならない(たとえば、電化を助けることなど)と主張することは微妙に違う。

前者は私は全く賛同するのだが、後者は若干の留保が付く。後者はCDMを、持続可能な開発を達成するための主要手段としてCDMを位置づけようという意図が入ってくるからだ。

それが悪いとは言わないが、それはあまりにCDMという制度に期待しすぎではないか、と個人的には思う。そもそもそれをCDMに期待すること自体がやや無理があるのでは、と。

だがしかし、CDMという仕組みがこれだけ注目を集めている中、それをなんとか活かしたいと考えるgeres等の団体の心意気自体には敬意を払わずにはいられない。

タイやフィリピンのDNA

タイフィリピンのDNA担当者からのプレゼンがあった。

DNAというのは、Designated National Authority の略で、日本語では指定国家機関と訳される。CDMが実施されるホスト国およびプロジェクト開発者のいる先進国の双方において、プロジェクトの実施の承認を出す機関だ。

彼らのプレゼンの中で印象深かったのは、両国とも、持続可能な開発への貢献をどのように評価するのかということにけっこう労力を割いていることだった。

CDMでは、当該プロジェクトが持続可能な開発に貢献しているかどうかを判断するのは基本的にはホスト国とされている。このため、ホスト国のDNAの判断が極めて重要な役割を果たすわけだが、多くの国では必ずしも十分にその辺の評価が行われているとは言い難い。

タイなどは、もともとDNAの設置自体がかなり遅れた国なので、どうなのだろうと思っていたのだが、今回聞いたプレゼンでは、ゴールド・スタンダードの持続可能性評価を参考にして、独自の持続可能性評価指標を開発し、一定の水準を満たしているものを "Crown Standard" という認証によって評価するという。

ホスト国が独自の認証基準を別途設けるというのは初耳なので、面白い試みだと思った。

プレゼンの後の質疑応答の中で、もう1つ興味深いと思ったのは、プロジェクトが実施された際の、持続可能な開発への貢献のモニタリングをどうやって行っていくのかという議論だった。通常のモニタリングでは、主な対象は当然排出量(の削減)ということになるが、それに加えて、持続可能な開発への貢献をDNAがどうモニタリングしていくのかというのが課題だという認識があった。

実は、ゴールド・スタンダードでは、もともと排出量の検証と共に持続可能な開発への貢献を、プロジェクト設計書(PDD)の段階で設定した持続可能性評価指標に基づいて同時に検証することが求められている。しかし、ホスト国自身の中でそうした問題意識が挙がっているというのは、あまり聞いたことがなかった。

どうやってやるのか、という詳細な方法論の議論があったわけではないのだが、DNAの担当者からそういう問題意識が出てくること自体が興味深かった。ひょっとしたら、これもまた、ゴールド・スタンダードが果たした陰ながらの貢献なのかもしれない。

伝統的な追加性議論

CDMについての議論では避けることができない追加性についても、少し議論があった。

といっても、真新しい議論ではないのだが。

やはり印象に残ったのは、DOE(指定運営組織)は、追加性審査においてはfinancial analysisを薦めることが多いが、実際のプロジェクトにおいては、CERによるIRR(内部利益率)の改善など微々たるもので、それがプロジェクト実施の決定要因になることはあまりないという矛盾。

永らく言われていることではあるが、この矛盾を超えて、本当に妥当なところで追加性を審査することがいかにすれば可能なのかという問題は、次期枠組みの中で、CDMが存続するとすれば一定の解答を与えなければならない問題の1つである。

地元の(ローカル)な金融機関のキャパビルの必要性

CDMプロジェクトがよりスムーズに実施されるための課題の1つとして、ホスト国のプロジェクト実施地域の金融機関のキャパビルの必要性が挙げられていた。

ホスト国ローカルの金融機関が抱える課題として、

  • 必要な法的文書を(英語で)作成する能力がない
  • そもそもCDMなぞというものに馴染がない
  • CERを当該プロジェクト(もしくは実施者)によっての収入として認知しない

などの課題があり、そうした課題を、国際的な金融機関の助言によって乗り越えることが必要だという。国際的な金融機関の側からすれば、ローカルな金融機関に能力があった方が、現地とのパイプが作りやすいし、国際的な金融機関とていちいち全てのプロジェクトに人を割けるわけではないので、集約化するにあたっては助けになるので、互恵的になりうるという話だった。

この話題は、あるセッションのパネルディスカッションで出てきた。ローカル金融機関のキャパビルが必要」という問題意識は、パネリスト全員が共有していたようなので、一般的な問題意識なのだろう。

そうしたキャパビルにおいては、ローカル金融機関の内部的な承認プロセスに踏み込んでまで行う必要が有り、個々の金融機関にカスタムメイドなキャパビルが必要だという意識も共有されていた。

プロジェクト実施上の教訓

CDM業界ではかなり有名な日本の波多野氏も来られていて、ご自身の経験からの教訓を発表されていた。

中でも印象に残ったのは、

  • プロジェクトから発生するCERをどのように使用するのかを明確に意識すること。その使用目的によって、その後にとるべき選択肢も変わってくる。
  • プロジェクトの進め方には、基本的には2つのアプローチが存在する。1つは、コンサルタントを雇いつつ、自分でプロセスを管理する方法。もう1つは、CERの買い手を予め見つけ、彼らにプロセス自体は任せる。必要なデータは随時提供をする。どちらにも長所短所があるので、それらをきちんと把握する。

という点と、MoC (modalities of communications) の変更によって買い手が契約を反故にするケースがありうることの指摘などである。

初日全般を通して

以上、実際に文字に落としてみると、意外と当たり前の話しかなかったように見えてしまうかもしれないが、個人的には、実際のCDMプロジェクトにかかわる人たちが感じている「雰囲気」のようなものの中で、こうした話を聞けたことは、結構貴重だった。

明日は2日前の様子を書くつもり。