新型コロナウィルス感染症拡大のCO2排出量への影響

経済活動が落ちればCO2排出量も一時的には減る

新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中で猛威をふるっています。
日本でもついに非常事態宣言が出されました。私の職場も、しばらく前から在宅勤務体制になっています。

このウィルスの影響が長期化するにつれて、人々の健康への直接的な影響だけでなく、経済に対する影響も大きくなってきました。そして、その結果として、CO2の排出量も減っているという推計がいくつか出てきています。私が目にした2つについて、見ていきたいと思います。

Carbon Briefに掲載された2つの分析

イギリスの気候変動問題に関する情報サイト、Carbon Briefはかなり早い時期から、中国の排出量に関する影響への分析記事を掲載していましたが、今週、新たに世界全体に関する推計も出しました。

www.carbonbrief.org

推計結果部分だけを抜き出すと、以下のように述べています。

Carbon Brief analysis of this data suggests the pandemic could cause emissions cuts this year in the region of 1,600m tonnes of CO2 (MtCO2). Although this number is necessarily uncertain, countries and sectors not yet included in the analysis can be expected to add to the total.

推計結果は1,600 MtCO2の減少、ということだそうです。日本風に言えば16億トンで、実に日本の年間排出量(13億トン)を超える排出量が、減少するだろうという推計です。世界全体で言えば、約4%の減少。かなり大きいですね。年間の排出量の落ち込みとしては、リーマンショック等を超えて過去最大とのこと。

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このウイルスの影響がどれくらい長期化するかにもよりますが、この減少はあくまで経済活動停滞による一時的なもので、根底にある化石燃料依存型のエネルギー経済構造が変わらなければ、やがて元に戻ることは間違いありません。ましてや、このウィルスを受けての景気対策が、エネルギー構造の移行を意識しない単なる延命策になったら、最悪排出量は増える可能性すらあります。なので「CO2の排出量的には減ったのはよかったこと」なんて楽観的な考え方はできません(さすがに誰もしないと思いますけど)。

冒頭でも述べましたが、Carbon Briefは、これに先立って、中国の排出量に関する推計記事も公表していました。

www.carbonbrief.org
こちらの見通しでは、春節後の4週間の排出量を例年と比較すると、同時期で約25%、約2億トン減っているという推計でした。ただし、これはあくまで春節後の4週間という時期で比較した場合で、年間に直すとだいたい1〜2%程度の減少です。


また、同記事では中国が既に経済活動を回復させるために色々と施策を打っている影響で、排出量も回復基調にあることが指摘されています。

上記の世界全体の推計は、こちらの中国に関する分析も踏まえてのもののようです。

米エネルギー省エネルギー情報局(DOE EIA)の短期見通し

Carbon Briefの記事でも言及されていますが、アメリカのエネルギー省(DOE)・エネルギー情報局(EIA)が4月7日に発表したShort-term Energy Outlook (STEO) (短期エネルギー見通し)でも、アメリカの排出量の見通しが出されています。

www.eia.gov
CO2に関しては、以下のように述べています。

After decreasing by 2.7% in 2019, EIA forecasts that energy-related carbon dioxide (CO2) emissions will decrease by 7.5% in 2020 as the result of the slowing economy and restrictions on business and travel activity related to COVID-19. In 2021, EIA forecasts that energy-related CO2 emissions will increase by 3.6%. Energy-related CO2 emissions are sensitive to changes in weather, economic growth, energy prices, and fuel mix.

2020年の排出量は、前年比7.5%減になるという予測が示される一方、2021年には3.6%増加するだろうと予測されています。アメリカでの拡大する経済影響を受けてか、減少割合は上記の中国に関する予測よりも大きいですね。

注意点

通常、CO2を始めとする温室効果ガスの排出量に関する統計というのは、2年ほど遅れて出てきます。たとえば、今年2020年の排出量統計が発表されるのは、通常2022年です。これは、温室効果ガス排出量というのが色々な統計を組み合わせて計算されているからです。

なので、以上で御紹介したものも、あくまで推計であり、実測値ではないことは注意が必要です。