6割の国が目標案を提出して・・・

6割出した

2010年の世界の排出量の割合にして、約6割を占める国々が、INDCを提出しました。INDCとは、2025年や2030年を射程とした気候変動(温暖化)対策の目標のことです。

出した国々の中には、アメリカ、EU、中国が含まれます。

日本は、すでに国内で色々報道があるので、出したという印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、実はまだ正式には国連帰国変動枠組条約事務局には出していません。ついこの前まで、パブリックコメント募集をしてました。このあと、最終的なとりまとめが行われて、政府・地球温暖化対策推進本部で決定されたのち、日本の提出時期は、7月中旬くらいになると言われています。なんだかんだいって、中国より後になってしまったのは残念です。

今後の交渉への影響ある?

やはり、アメリカ、中国という二大排出国がまがりなりにも目標を出してきたことで、今後の影響にも少なからず影響を与えると思います。

「具体的に何が変わるの?」と言われちゃうとちょっと辛いのですが、少しざっくりとたとえでいうと、米中が出してきたことで、「12月のCOP21でパリ合意が成立しなくてもいいや」と考える交渉官の数はかなり減ったということが言えるかもしれません。

国連でのパリ合意へ向けた交渉は、現在は、「交渉テキスト」と呼ばれる文書をベースに行われています。7月24日に、新しい議長案が出てきて、次回8月末〜9月頭、そして、10月の会議へと交渉が続く予定です。

現在、一番新しいテキストは下の2つです。


前者がまとめに近く、後者は、そこに至るまでの、テキストのセクション毎の議論の過程を少し書いてある文書といえます。共同議長が、今後のプロセスについて説明した文書はこちら。


でも「2℃未満」には足りない

各国が出した目標は、それでも、国際的な目標である「地球の平均気温上昇を2℃未満に抑える」という大目標には足りなくなるだろうというのは良く知られています。アメリカ、中国、EU、そしてもちろん日本の目標ともに、充分なものとはいえないからです。この分野の英語では、排出量削減目標が充分に高いことを"ambitious"とよく表現するので、「野心的である(ない)」とよく表現されます。

各国の目標案の評価の例として、Climate Action Tracker という欧州の複数の研究機関が合同でやっているイニシアティブによるものがあります。

ではどうするのか。

こうしたことを背景として、去年辺りからじわじわと話題になってきたトピックがあります。それが、「サイクル」や「タイムフレーム」と呼ばれる議論です。今度は、その辺についてもちょっと説明してみようかと思います。

約束草案の要綱案

日本のINDCの案が今日の審議会で提示されました。

2030年までに、温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減する、という内容です。

COP21・パリ合意へ向けた国別目標案(INDC)一覧

12月のCOP21、パリ合意へ向けて、各国がINDC (Intended Nationally Determined Contributions)の提出を始めています。現時点までで、8つの国・地域(EUを含むので)が提出しました。

INDCは、日本語では「約束草案」とか「国別目標案」などと訳します。政府や新聞では前者で統一しているようです。

公式に国連に提出されたものは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局のウェブサイトの下記ページにリストアップされていきます。

これらをベースに日本語でそれぞれを簡単にまとめたものは、CAN-JapanおよびWWFジャパンのウェブサイトでも掲載しています。

おそらく、6月頭の国連会議およびG7の前には、また駆け込みで何カ国か出してくるのではないかと思うのですが、さてどうなるか。

エネルギーミックスの数字

今年に入ってから開催されていた経産省資源エネルギー庁の下での、いわゆる「エネルギーミックス」に関する案が公開されました。

下記の審議会配布資料の中にある「骨子案」というのがそれです。

昨年に作られたエネルギー基本計画はやや定性的な方針を示した内容ですが、今回のは、より具体的に数字を入れた内容です。

すでに、4月上旬からぽつぽつと内容は漏れていたので、今回の資料そのものに大きな驚きはありませんが、やはりというかなんというか、再エネの数字は物足りない内容になってます。内訳みると、太陽7%で、風力1.7%と、それぞれの業界目標値よりも低いですし。

原発の20〜22%という数字は、そもそも、既存のものの運転期間を40年を超えて運転するか、もしくは新設しないと無理な数字なので、現実味のない数字です。

他方、石炭はほぼ現状の割合を維持する方針。

あと、議論がかなり電力に集中し過ぎてしまったのも、やや課題の大きいところかなと。本来は、エネルギー全体にかかわる話なので、電気だけではないのですが。たとえば、省エネの話についても、電力の17%云々が話題になりましたが、もっと最終エネ消費全体の議論を深堀できればよかったのですが。

他にもいろいろありますが、これをベースにして、今度は30日に温室効果ガス排出量削減目標の案が、別の審議会で出される予定です。

安倍首相の施政方針演説

今更なんですが、安倍首相の施政方針演説での気候変動・エネルギー関連部分をチェック。ほとんど自分のための備忘録に近いですが。

(エネルギー市場改革)

電力システム改革も、いよいよ最終段階に入ります。電力市場の基盤インフラである送配電ネットワークを、発電、小売から分離し、誰もが公平にアクセスできるようにします。ガス事業でも小売を全面自由化し、あらゆる参入障壁を取り除いてまいります。競争的で、ダイナミックなエネルギー市場を創り上げてまいります。

低廉で、安定した電力供給は、日本経済の生命線であります。責任あるエネルギー政策を進めます。

燃料輸入の著しい増大による電気料金の上昇は、国民生活や中小・小規模事業の皆さんに大きな負担となっています。原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた原発は、その科学的・技術的な判断を尊重し、再稼働を進めます。国が支援して、しっかりとした避難計画の整備を進めます。立地自治体を始め関係者の理解を得るよう、丁寧な説明を行ってまいります。

長期的に原発依存度を低減させていくとの方針は変わりません。あらゆる施策を総動員して、徹底した省エネルギーと、再生可能エネルギーの最大限の導入を進めてまいります。

安倍内閣の規制改革によって、昨年、夢の水素社会への幕が開きました。全国に水素ステーションを整備し、燃料電池自動車の普及を加速させます。大規模な建築物に省エネ基準への適合義務を課すなど、省エネ対策を抜本的に強化してまいります。

安全性、安定供給、効率性、そして環境への適合。これらを十分に検証し、エネルギーのベストミックスを創り上げます。そして世界の温暖化対策をリードする。COP二十一に向け、温室効果ガスの排出について、新しい削減目標と具体的な行動計画を、できるだけ早期に策定いたします。

個人的に気になったのは、上記で赤くしたいくつかの部分。

  • 電力自由化については、かなりはっきりと決意を述べていること。
  • 水素社会をあえてとりあげていること。ここ最近、この方向性は確定的になってきましたね。
  • 再生エネ・省エネは「最大限」という言葉遣いが続いている。
  • 大規模な建築物への省エネ基準の適合「義務」が言及されていること。2020年よりも前倒しになるって決まったのだったか。あとで確認しておかないと。
  • 削減目標の策定時期は、「できるだけ早期に」という表現から変わっていない。せめて6月冒頭の会議までには間に合わせたいところだけれども。

ADP2.8が2月8日〜13日に開催

今年も気が向いたときだけしか書けないでしょうけど、ぼちぼちと。

ADPの開始

昨年のペルー・リマでのCOP20の決定を受け、いよいよ今年最初の国連気候変動会議(ADP)が始まります。今回はスイス・ジュネーブで、2月8日〜13日の開催予定です。

相変わらず、いわゆるagenda fight*1を避けるために、第2回目から議題は閉じずにそのまま継続しているという形式になっているので、ADP第2回目の第8セッション(ADP2.8)という位置づけです。

ADP共同議長(Co-Chairs)から、今回の会議をどう運営するつもりなのかを記した恒例の「シナリオノート」も公表されています。

今回から、新しいADP共同議長さんたちです。

  • Mr. Ahmed Djoghlaf (Algeria)
  • Mr. Daniel Reifsnyder (USA)

リーフシュナイダーさんの方は、かつてコペンハーゲンまでの交渉の時に、AWG-LCAの議長も務められたことがある方ですね。議長が信頼を得ることができるかどうかって、この交渉ではかなり大事なので、その辺も注目です。

COP20・CMP10のレポート

今回のADPは、当然ながら昨年のCOP20の結果を踏まえて開催されるわけですが、つい先日、COP20とCMP10の正式なレポートが発行されました。

COPやCMPの「レポート」は、決定などがきちんと入れられた国連文書です。COP20での主な決定である"Lima call for climate action" は上記COPの方のAdd.1に入っています。

余談になりますが、私が新人の時に戸惑ったのが、結局、COP等で決まった「決定」文書はどこに行くのかということでした。

これ、なんだかえらく分かりにくいのですよね。だから、後で調べようと思って苦労した覚えがあります。

長年の経験?によって分かったのは、以下の流れ。

COPでは、決定時にLドキュメントという、ドキュメントシンボルにLが付いた文書が作られます。ま、いわば総会での決定前の決定草案としての文書ですね。たとえば、Lima call for climate actionの下書きはFCCC/CP/2014/L.14という番号が振られてました。

この文書は、いわば総会用の草案なので、最終決定ではありません。この後、変わる可能性があります。総会に文書が出てくる時は、だいたい、交渉は終わっていてそのまま採択されるようになっているものですが、時には総会で各国の間でドンパチやらかす時もありますので。

で、総会で決定がされると、最終的にそれが修正されて、決定文書となります。インターネットが貧弱だった時代は、この最終的な議論の推移を把握していないと、けっこう後にならないと最終的な文書がなんだったか、オブザーバーには分からなかった記憶があります。

今では、だいたい決定の翌日ぐらいに、総会で修正があった場合はそれも含めて、決定文書がUNFCCCのウェブサイトにアップされます。その時には、"advance unedited version"などの但し書きが付くことが多いです。

そして、それらが最終的にきちんとフォーマットなどが整えられて、正式な国連文書の記録として残るのが、上記「レポート」です。

で、レポートにも少し癖というか慣例がありまして、一連の文書のうち、最初の"Add.X"がついてない文書は、だいたいがproceedingsで、Add.1以降が実際の決定文書です。なので、その会議で一番大事な決定は、だいたいAdd.1に入っています。これが分かっていると文書の探しやすさが違います。

ちなみに、Addはaddendum、つまり付録・追加部分の意味で、要するに文書が長過ぎる場合に小分けにされるもんだと思って頂ければ。国連文書では、やや特殊な使い方がされますが、それはまたそのうちに。

*1: 議題を採択するだけで数日間もめて交渉時間を無駄にする行為を揶揄して使うようになった言葉

BASIC閣僚会議の結果

BASIC閣僚会議

気候変動に関する国際交渉で出てくるグループの1つに、BASICというのがあります。メンバーであるブラジル、南アフリカ、インド、中国の頭文字をとった名前で、途上国の中でも成長が著しい、リーダー的な存在の国々のグループです。
そのBASICグループの閣僚会議が先日あったようで、その共同声明文がインド政府・環境森林省のウェブサイトで公開されています。

BASICの閣僚会議は、別に公式な国連会議でもなんでもありませんが、このグループの国々が、何を今度の会議で主張するかを知る上では重要なので、NGO業界ではよく話題になります。
18回もやっているんですね。

COP20での成果について

具体的にどのような会議であったかは分かりませんが、共同声明文の中で、気になった箇所をいくつかピックアップしてみます。
まずは、今年のCOP20・COP/MOP10(ペルー・リマ)で期待される成果について。


4. The Ministers underscored the need for finalization of the elements for a draft negotiating text for the 2015 outcome by the COP in Lima. They reiterated that the six core elements for the 2015 outcome have been identified in paragraph 5 of decision 1/CP.17 and that these should be addressed in a balanced and comprehensive manner through an open and transparent, inclusive, party-driven and consensus-building process. [emphases added]
交渉テキストの「要素」(いってみれば章立て)について合意するべきだということについて、再確認をしています。これは、普通に考えればこれまでの合意の繰り返しにすぎませんが、逆に言うと、最近の傾向であり、議長国の希望である「リマで最初の交渉テキストを作る」というところまでは踏み込んでいません。
また、「要素」については、相変わらず、ダーバンでのCOP決定において上げられている6つの要素を基礎とするべきだという主旨のことが述べられています。この辺もポジションは変わっていませんね。

次期目標案・INDCsについて

お次はいわゆるINDCsです。INDCsとは、intended nationally determined contributions の略です。ざっくり言えば、各国が次期枠組みにおいて掲げる目標の案のことです。昨年のCOP19・COP/MOP9(ポーランドワルシャワ開催)にて、2015年3月までに出すことが奨励されました(本当の決定文はもうちょい複雑なのですが)。
まだ「案」であり、最終決定ではないという意味で、"intended"という言葉が使われ、上から課されるのではなく、各国が自分たちで決めるという意味で"nationally determined"という言葉が使われています。最後の"contributions"は、先進国も途上国も同じ"commitment"を負うべきだとした先進国側と、先進国と途上国は別々の約束、すなわち先進国="target"、途上国="action"として、責任の差を明確にするべきだという途上国側との間をとって採用された言葉です。
そのいわくつきのINDCsについて、BASIC閣僚共同声明文が言及しているのが下の部分。


7. The Ministers concurred with the need for all Parties to communicate their intended nationally determined contributions (INDCs) as early as possible. The Ministers affirmed that the INDCs would include all pillars of the Durban Platform - mitigation, adaptation,finance, technology development and transfer and capacity-building.

8. The Ministers stressed that in accordance with the Convention principle of differentiation, the commitments of the developed countries to be included in the INDCs should be quantified economy-wide emission reduction targets for mitigation and provision of finance, technology development and transfer as well as capacity building support to developing countries for their mitigation and adaptation actions. They reiterated that the INDCs of developing countries will be in the context of their social and development needs and will also be premised on the extent of financial, technological and capacity-building support provided by developed countries.

9. The Ministers emphasized that the information to be provided in the context of the INDCs would also need to be accordingly differentiated between the developed and developing countries in accordance with Article 12 of the Convention. The Ministers further stressed that the purpose of such information is to facilitate the clarity, transparency and understanding of the INDCs in accordance with the Warsaw decision.
[emphases added]
共同声明文をみると、
  • 相変わらず、BASICとしては、先進国と途上国を明確に区別した目標のあり方を求めていること
  • BASICは、引き続き、INDCsの中にいわゆる排出量削減目標だけでなく、とくに先進国は、資金・技術・キャパシティビルディングの支援を書き込むことを求めていること。途上国については、そうした支援の存在を条件としたものとなること
  • 提出の時期については、「なるべく早期に」という表現にとどまっていること
がわかります。いずれも、従来からのBASIC諸国の立場から大きく変わっていませんので、驚きはありませんが、相変わらず、先進国と途上国の明確な差異化を求めていることがやや気になります。INDCsは、そもそも各国が独自に作るものなので、あまりそこに固執して、交渉の硬直化を招いてほしくないなーというのが率直なところです。
あと、時期については、前回の国連会議のタイミングで、中国は来年前半に出すという意思を示していたので、もう少し他の国も含めて踏み込んでくるかなーと期待したのですが、やっぱそうはいかないですよね。
総じて、途上国側の雄としてのハードラインは変わっておらず、厳しい交渉となりそうです。