IPCC第5次評価報告書第2作業部会報告書の発表

3月31日(月)、IPCC気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書の第2作業部会の報告書が発表されました。

いずれも最終の編集・校正作業が終わる前のもののため、リンクのURLはいずれ変わります。

今回の第2作業部会の報告書は、昨年9月に発表された第1作業部会の報告書に続くものです。第1は「自然科学的根拠」をテーマとしており、人間活動が気候変動の原因であるのか否か、気温上昇幅や海面上昇幅の予測などを扱っています。第2は「影響・適応・脆弱性」をテーマとしており、気候変動によって引き起こされる影響は一体どのようなものがどれくらい出てくるのか、そうした影響への適応の可能性はどれくらいあるのかなどが扱われています。

このあと、来週に第3作業部会があり、「気候変動の緩和」、つまり対策面での科学的知見がとりまとめられて、3つの作業部会の報告書が出そろうことになります。

今回の第2作業部会の報告書は、前回2007年の第4次の時と比べると、その間に蓄積された研究によって気候変動による影響に関する確信度が高くなっている他、「2℃上昇」と「4℃上昇」の世界における影響の対比に重点が置かれていたり、地域ごとの分析にも深みが増していたりします。

日本政府による簡単な発表はすでに出ていますが、第1の時と同様、日本語訳や解説のページもいずれ掲載されると思います

今回は珍しく、IPCCによるビデオもあります。残念ながら日本語はありませんが。

また、報告書が発表された際のプレスカンファレンスの模様も録画されています。こちらは、ウェブサイトの方に行けば、日本語の同時通訳が付いているものもあります。また、使われたプレゼンテーションも便利です

この他、日本の各NGOから出ているプレスリリースや解説等としては、以下があります。

政府審議会のペースが遅い

先週19日と今週24日に、それぞれ、温暖化とエネルギーに関する審議会が開催されまいた。

前者は、正式には、

というやつで、環境省経済産業省の合同審議会です。前回のポストでは、NGOからの国連気候変動ボン会議の報告を紹介しましたが、こちらには、政府による温暖化国際交渉の現状という資料もあります。

いつも思うのですが、政府が作る資料って、審議会の配付資料の中にかなり重要なものがあったりするので、当該政策分野の調べものをするときには、こういう場所も見てないとダメだったりするんですよね。

後者のエネルギーの方は、正式には、

という名前になります。エネルギーの方は、Ustream中継もされたので、こちらのアーカイブもみることができます。

両方を傍聴して感じたのは2つ。

1つは、議論のペースが遅いな〜ということ。両方とも、ここのところ、月1回程度のペースでしか開催されておりません。温暖化の方で言えば、COP19までに2020年の目標の見直し結果を提示するというのが総理指示ですが、現状の議論のペースではとてもそのままいくとはとても思えません。エネルギーの方も、年末にエネルギー基本計画をまとめるという予定のはずですが、このペースだとできるのかな、という感じです。

お役所としては、参院選の結果が出るまで待ってから、という方針だったのかもしれません。この後、ペースアップした議論が行われるのでしょうか。

もう1つは、議論の中身について。特に温暖化の方です。

今回の会議でも、「2020年目標は数値としては出さなくてもよいのでは。エネルギー基本計画のエネルギーミックスの議論を待つべき」というような意見も出ていおり、正直、「おいおい、それじゃあ、交渉官はかわいそうだ」と思いました。

日本は震災以降、2年以上が経過する中で目標の見直しを続けてきました。2020年の目標は、京都議定書に入っている国も、そうでない国も、きちんと取り組んでいるというのが今の国際交渉での前提です。2014年1月1日には、隔年報告書(biennial report)という、2020年へ向けての「進捗」を報告する報告書も出すことになっています。その中で、日本は目標すら「まだちょっと待って」の状態なのです。

その上で、現在交渉中の2015年合意に入れるべき、2020年以降の目標(2030年?)をこれから交渉しようというのですから。

今回の議論では、2030年目標に関する議論も、論点としてすらありませんでした。これもまた、不安な兆候です。

環境NGOの人間としても不安ですが、一人の日本人としても、またもや国連交渉で日本は積極的な役割を果たせない可能性が高いなという予感がしています。

6月の国連気候変動ボン会議に関するNGO報告

ふと思い出したように更新。

もう既に1ヶ月以上たってしまいましたが、6月3日〜14日に国連気候変動会議が開催されてました。

政府による「結果概要」は下記。

IISDによるEarth Negotiations Bulletinの該当ページは下記。

7月2日には、参加したNGO合同で、報告会も開催しました。その報告会の模様は、資料と一緒に下記にまとめてあります。

WWFジャパンの名前でまとめてますが、日本の気候変動系NGO合同で実施した報告会です。

あと、手前味噌ですが、自分で文章としてまとめた報告も下記に。

安保理と気候変動

先日の安保理会合は、日本にとっては当然北朝鮮問題が注目の話題だったわけですが、実は、その脇で気候変動の話題も採り上げられました(2月15日)。

といっても、安保理の正式な話題として採り上げられたのではなく、イギリスおよびパキスタンの呼びかけでもたれた特別会合のような位置づけだったようです。私も詳しくは知りませんが。

その場の様子は、Rachel Kyte さんという世銀の方のブログで少し読むことが出来ます

中でも印象的なのは、マーシャル諸島のトニー大臣のお話を書いた下記の部分でしょうか(訳す元気がないので英語のまですいません)。

Perhaps most moving of all, Minister Tony deBrum from the Marshall Islands recounted how, 35 years ago, he had come to New York as part of a Marshall Islands delegation requesting the Security Council’s support for their independence. Now, when not independence but survival is at stake, he is told that this is not the Security Council’s function. He pointed to their ambassador to the UN and noted that her island, part of the Marshall Islands, no longer exists. The room was silent.


我らがClimate Action Network (CAN) 代表のWaelもスピーチをしたようです。CAN International のウェブサイトにプレスリリースが載ってます。OxfamからはTim Goreさんが喋った模様。

こうした、「気候変動を安保理で話す『安全保障』事項に押し上げよう」という動きは、数年前からあります。有名なのはイギリスが推し進めた「気候安全保障」(climate security)という概念でしょう。

ただ、一般の感覚からすると、まだまだ「温暖化と安全保障は違うでしょ」という感じではないでしょうか。

確かに、伝統的に、「安保理が対象とするような安全保障問題」というのは、それこそ今回の北朝鮮の核実験のように、「戦争に関係する、あるいはしかねない事項」というのが一般的な理解だと思います。あるいは、ソマリア紛争のような国内紛争。

ただ、9.11以降のテロが「国と国との戦争」という概念から飛び出たのと同じように、実はそれ以前から、こうした狭い意味での「安全保障」という概念を見直そうと動きはありました。

それはとりもなおさず、一体何を持って「安全(security)が保障された状態」といえるのか、という問いに直結します。戦争は解りやすいので、戦争がない場合だというのは分かり易いですが、最近の世の中では戦争なんてなくなって、安全とは言えない状況はたくさんあります。

たとえば、テロや戦争とはほぼ無縁の南太平洋の島国においては、海面上昇による被害こそが目に見えて生活を脅かす喫緊の危機であり、それがある状態を「安全」とは呼べないだろう、という考え方です。気候変動が巨大なハリケーンを巻き起こし、今までそんなの来なかったようなところに人命を含めた甚大な被害を持たした時、それはただ単に「戦争には関係がないから」という理由で話題にするべきではないものなのか、という問いでもあります。

今回、CANのWaelが言及した事例であれば、2011年にソマリアでの大量の難民が隣国へ逃げ込んだのは、(その時は)紛争のせいではなく、干ばつの後の食糧不足が原因だったと言われています。その原因に、気候変動が一役買っているのであれば、それは人々の「安全」を脅かす脅威とは言えないのでしょうか?それは、「安全保障」のための組織が扱うべき課題ではないのでしょうか?

もう1つは、「気候変動は、戦争を起こすんじゃないか」という考え方です。今回、OxfamのTimは、世界的に発生している干ばつや洪水による食糧生産への影響を事例として挙げたようです。もし気候変動を「一因とする」食糧危機が、社会的に不安定な状況を招き、それが引いては紛争の原因ともなりうるのだとすれば、それは伝統的な意味での安全保障にとっても、十分脅威と言えるのではないか、という考え方です。

前者の「安全保障」という概念自体を広げる考え方も、後者の伝統的な意味での安全保障に影響を及ぼすという考え方も、両方とも、まだまだ主流派になったとは言い難い考え方だとは思います。安保理が、気候変動を脅威として見なして重大決定を出すとは、残念ながら現状では、正直、まだまだなかなか想像が難しいです。

ただ、人々にとって何が安全なのか、戦争に繋がってしまうような紛争の根源は何なのかを考えることのきっかけにはなります。

また、逆に言えば、世界の政策決定者たちも、「戦争・紛争を間際で防げればそれで安全」なんてナイーブな考え方を持っている人はもはや稀でしょう。テロであれば、紛争であれ、その背景には、社会的な不安定があることに、もう誰だって気がついています。問題は、そこからもうちょっと先に進めるか。どう進められるか、でしょうね。

京都議定書の記念日と移行期に

今日は、あまり知られていないと思いますが、8年前の今日、京都議定書が発効しました。そして、今年は同時に、京都議定書の第1約束期間から第2約束期間への移行期の年でもあります。

京都議定書が持った意義は、単に先進国に排出量削減目標を課したというだけでなく、今日につながるいろんな仕組みをその中身に内包したことで、世界の気候変動政策を後押ししたことだと思います。

しかし、日本は、第2約束期間で削減数値目標を持たないという決定をして、京都から離れてしまいました。

京都議定書がきっかけでこの業界に足を踏み入れた人間としては、忸怩たる思いがあります。

「京都ではもうやっていけない」という決定が、京都よりもより良いものを構想して、自らも対策をやっていく、という決意であったならまだしも、今日の日本の取組みを見る限りにおいては、そうではなかったことが明らかです。

削減数値目標すら失い、対策の遅れは他国のせいにして憚らず、自国の削減よりも他国の削減の重要性のみを説いて回る傾向があります。「日本の素晴らしい技術が広がればもっと削減ができる」という話は頻繁に出てきますが、そうした技術を他国のニーズに合わせて、きちんと広げるような仕組みの構想は未だ出てきていません。二国間クレジットのアイディアがそれだと言われるかもしれませんが、残年ながら、削減目標がない状態でオフセットの仕組みを作ったところでドライブにはなりませんし、政府がお金を出し続けるならば、それは基本的に産業補助金の域を出るものではありません。

京都議定書のホスト国であった国としての誇りはそこにはなく、「忸怩たる」思いを、二重に感ぜずにはいられません。

難しく、厳しい時期ではありますが、国際社会の中で、日本が温暖化対策に先進的な役割を果たしていくことを諦めてはいけないと思います。それは、国内の対策でも、国際的な交渉でも。

「2℃」目標達成のためには、日本の排出量なぞは、2050年時点では事実上ゼロに近い値にしないと難しいことはよく知られています。新興国に厳しい対策を求めたとしても、日本が今よりはるかにチャレンジングな対策をとらなければならないのは、「気候変動という問題を重視するなら」、何も変わらないはずなのです。ならば、私たちは、着実に、対策を実施していくべきではないでしょうか。

京都の記念日にそんなことを思いました。

バンコク会議が終わったようだ


今年2回目の国連気候変動会議として開催されていたバンコク会合が先ほど終了したようだ。今回は、8月30日〜9月5日までの1週間という短い会合だった。
具体的には、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)、国連気候変動枠組条約の特別作業部会(AWG LCA)、京都議定書の特別作業部会(AWG KP)という3つの会議体の会合が開催された。
NGO団体で(うちも含めて)報告やら解説やらがされている。

参加しているスタッフはtwitterでも情報発信しているので、酔狂な人はそれらを遡ってみるのもよいかもしれない。
今回の会合は、年末のカタール・ドーハでのCOP18・COP/MOP8へ向けての前哨戦。
いくつか課題はあるが、
  • ADPの作業計画は決まるのか
  • 必要な削減量と各国が誓約している削減量との甚大な差(ギャップ)を埋めるための方策は出るのか
  • AWG LCAもAWG KPも今年で終えることに一応なっているが、本当に終えることができるのか
といった論点が主なものだろう。
特に最後のポイントについては、さっさと閉じてしまいたい先進国と、きちんと自分たちにとって大事な論点(資金等)を政治的に議論できる場を残しておきたい途上国との間では大きな意見の隔たりがあるようだ。詳しくは上記の色々な報告を参照されたい。
今回の会議成果は、ぼちぼちと国連のウェブサイトにアップされ始めた。もうちょっと分析してみたいと分からないが、ドーハにおいて、LCA(とKP)の議論から、ADPへと議論を収束していくというのは、先進国が望むほどにはすんなりとはいかないようだ。ダーバンで終了するといったから終了するんだという前に、きちんとそれぞれの論点のケリはつけなければならない。
今回は発表されなかった日本の目標見直しがどうなるかも、次回に向けては不安なところ。

今日のFT:Appleが労働環境改善を約束したが

Appleファンとして、最近気になっていたのが、iPhoneなどを製造する中国の下請け工場が、労働者を過酷かつ危険な環境下で働かせているとの告発があったことだ。

スティーブ・ジョブス氏の功績もあり、世界で最も成功した企業となりつつあるApple醜聞だけに、アメリカのメディアでは結構大きく取り上げられ、複数のメディアが実態を報じていた。中には、一部、ねつ造に近い報道も混じっていたようだが、労働環境が過酷だということ自体は本当らしく、人権団体などから抗議の声が上がっていた。

正確には、Apple自体が所有する工場ではなく、Foxconnというサプライヤーが所有する工場での話らしいが、
Appleが課す厳しいマージンや調達責任の観点から、Appleが特に問題視されていた。

下記のFTの記事は、この問題を受けて、Appleのティム・クック氏がFoxconnの工場を視察し、結果として、労働環境の改善を報じたものだ。

記事は、Apple労働環境改善の要求に応じたことを報じながらも、最後にチクリと、過去に似たような宣言をした後に改善がはかられなかったことを指摘している。もっとも、今回は、外部の委員会の提言を受け入れ、そこが実際にモニタリングも実施するらしいので、その時よりも確実ではあるだろうが。

この、Appleがした受けに出しているFoxconnというのは、つい最近、シャープに出資することが報じられた鴻海(ホンハイ)グループのブランドだ。

Appleにはぜひ問題を改善してほしいが、問題はおそらく氷山の一角で、業界の他の企業にも問題があるのではないかという気もする。