バンコク会議が終わったようだ


今年2回目の国連気候変動会議として開催されていたバンコク会合が先ほど終了したようだ。今回は、8月30日〜9月5日までの1週間という短い会合だった。
具体的には、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)、国連気候変動枠組条約の特別作業部会(AWG LCA)、京都議定書の特別作業部会(AWG KP)という3つの会議体の会合が開催された。
NGO団体で(うちも含めて)報告やら解説やらがされている。

参加しているスタッフはtwitterでも情報発信しているので、酔狂な人はそれらを遡ってみるのもよいかもしれない。
今回の会合は、年末のカタール・ドーハでのCOP18・COP/MOP8へ向けての前哨戦。
いくつか課題はあるが、
  • ADPの作業計画は決まるのか
  • 必要な削減量と各国が誓約している削減量との甚大な差(ギャップ)を埋めるための方策は出るのか
  • AWG LCAもAWG KPも今年で終えることに一応なっているが、本当に終えることができるのか
といった論点が主なものだろう。
特に最後のポイントについては、さっさと閉じてしまいたい先進国と、きちんと自分たちにとって大事な論点(資金等)を政治的に議論できる場を残しておきたい途上国との間では大きな意見の隔たりがあるようだ。詳しくは上記の色々な報告を参照されたい。
今回の会議成果は、ぼちぼちと国連のウェブサイトにアップされ始めた。もうちょっと分析してみたいと分からないが、ドーハにおいて、LCA(とKP)の議論から、ADPへと議論を収束していくというのは、先進国が望むほどにはすんなりとはいかないようだ。ダーバンで終了するといったから終了するんだという前に、きちんとそれぞれの論点のケリはつけなければならない。
今回は発表されなかった日本の目標見直しがどうなるかも、次回に向けては不安なところ。

今日のFT:Appleが労働環境改善を約束したが

Appleファンとして、最近気になっていたのが、iPhoneなどを製造する中国の下請け工場が、労働者を過酷かつ危険な環境下で働かせているとの告発があったことだ。

スティーブ・ジョブス氏の功績もあり、世界で最も成功した企業となりつつあるApple醜聞だけに、アメリカのメディアでは結構大きく取り上げられ、複数のメディアが実態を報じていた。中には、一部、ねつ造に近い報道も混じっていたようだが、労働環境が過酷だということ自体は本当らしく、人権団体などから抗議の声が上がっていた。

正確には、Apple自体が所有する工場ではなく、Foxconnというサプライヤーが所有する工場での話らしいが、
Appleが課す厳しいマージンや調達責任の観点から、Appleが特に問題視されていた。

下記のFTの記事は、この問題を受けて、Appleのティム・クック氏がFoxconnの工場を視察し、結果として、労働環境の改善を報じたものだ。

記事は、Apple労働環境改善の要求に応じたことを報じながらも、最後にチクリと、過去に似たような宣言をした後に改善がはかられなかったことを指摘している。もっとも、今回は、外部の委員会の提言を受け入れ、そこが実際にモニタリングも実施するらしいので、その時よりも確実ではあるだろうが。

この、Appleがした受けに出しているFoxconnというのは、つい最近、シャープに出資することが報じられた鴻海(ホンハイ)グループのブランドだ。

Appleにはぜひ問題を改善してほしいが、問題はおそらく氷山の一角で、業界の他の企業にも問題があるのではないかという気もする。

今日のFT:アメリカEPAの発電所対策

アメリカのEPAが新規発電所に関する排出基準を設定したらしい。

新規の発電所に限った対策らしいのだが、面白い動向だ。

アメリカでは、この前の選挙で議会構成が変わる前までは、キャップ&トレード型の排出量取引制度を入れることを内容とする法案が取りざたされていた。しかし、結局いくつかあった法案は入らず、選挙によって共和党有利の議会構図になり、本格的な気候変動政策の導入はストップしたままだった。

そのような中、EPAは、気候変動政策として、既存の権限をベースとして導入できることを常に模索していた。そのうちの1つがこうした発電所規制だった。

キャップ&トレード型の排出量取引や炭素税といった政策を経済的手法とすれば、こちらは直接規制の部類になる。環境規制としてはこうした直接規制の方が歴史は長く(○×という物質を出すことを制限する、等の規制)、ある意味原点回帰とも言える。

かけられる規制は、"1,000 pounds of CO2 per megawatt‐hour (lb CO2/MWh)"とのこと。1ポンドは0.4536キログラムだから、453.6 kg/MWh、日本でよく使われる単位に換算すれば、0.4536 kg/kWhということになる。

上のFTの記事によれば、英国政府の調査ではコンバインドサイクルガス発電は通常780lb-CO2/MWhで、超臨界石炭火力発電所が1,600lbs-CO2/MWhとのことなので、ちょうど、石炭からガスへのシフトを促すことになるようだ。

EPA自身による公式発表は下記にある。

この他、アメリカのNGOも色々と声明やら評価を出しているようだ。

日本と比べるとどうなのだろうか?

単純な比較には問題があるかもしれないが、下記のリンクにあるのは、排出量の計算時に使うことになっている電力の係数である。

0.4536 kg/kWhという数字と比較してみると、これよりも結構大きなところも多い。無論、日本の上の数字は、各社の既存の発電所から出てきた数字なので、あくまで「これから建てる発電所」を対象とした上記規制と純粋には比較できないが。

早速、アメリカのいくつかのNGOも声明等を出している。その辺については、US CANがウェブサイトにまとめている。

今週の日経ビジネス:イケア

今週の日経ビジネスは、第1特集がデフレの話で、第2特集がイケアについてだった。デフレの話も面白かったのだけれど、個人的にはイケアの話の方がより面白かった。

意外だったのは、イケアは上場会社じゃないということ。企業そのものは、財団の所有になるらしい。仕事上でも、(私個人は今までのところお付き合いはないのだけれど)うちの同僚や他部署ではお付き合いがあるのに、そんなところから驚くとは恥ずかしい限りだが。

最近は「誰のための会社か?」議論を聞いたり読んだりすることも多いので、財団所有で上手くいっている企業という意味では面白い事例だ。

今回の特集記事はいくつか面白い点があったが、一番面白かったのは、世界の各地域への進出にあたっての考え方。イケアは、少なくとこれまでは、進出した各地域のニーズに合わせるというよりも、あくまでイケア流をつらぬき、スウェーデン流・北欧流の住生活を売るということに重点を置いてきたという。

私はイケアのお店で買物をしたことはないけれど、一頃のブームでの印象は、やっぱり北欧風の家具が比較的安く手に入るところというイメージがある。少なくとも、日本風の家具が欲しくてイケアに行く人は多分いないだろう。

ただ、そんなイケアでも、最近では、たとえば売り方においては日本の一般的な家庭の部屋に合うような配置の中で見せて売るなど、現地の文脈に合わせる部分も出てきているらしい。

こういう、現地に合わせる部分と合わせない部分。この間の線引きは結構難しく、イケアの事例はそこに何かヒントを提供しているように思えた。そこが面白いと思った理由だ。

企業が海外進出する時に、どれくらい現地の文脈に合わせるのかというのは、結構難しいところなんだろうと思う。これは、イケアのように商品やその売り方についてある問題だけでなく、たとえば、私がいるNGO業界において海外の組織が日本で活動を展開する時に、どれくらい現地のスタイルに合わせ、どれくらいを「自分たちらしさ」を維持するのか、という問題にも繋がる問いだと思う。

ただ、特集記事を読み進めていくと、現在のイケアのデザインは、必ずしもスウェーデン流や北欧流に固執しているというわけではなくて、「世界中で使ってもらえるような『民主的な』デザイン」というところに核があるようだ。それを核に、各国に対しては微調整をする。

なんだか当たり前の戦略のような気もするが、多くの企業が海外進出で苦労している事実を考えると決して当たり前にできることではない。その辺のヒントとして面白い記事だった。

国じゃない「グループ」との対話の重要性

TEDをなんとなく見ていたら非常に興味深いスピーチがあった。

Jonas Gahr Støre: In defense of dialogue

15分程度のスピーチなので、英語が分る方は是非見て欲しい。本体のサイトの方にいけば原稿もあるし。

ノルウェー外相ヨーナス・ガール・ストーレ氏によるスピーチである。スピーチの要点はとてもシンプル。現代世界の政治的問題解決にあたっては、「対話」が大事だということ、それだけである。

至極当たり前のことに聞こえるが、このスピーチが面白いのが、その「対話」をする主体として、「外交官」が、もっと(国家ではない)「グループ」(「社会的集団」とてでも訳すべきだろうか)と対話をしなければいけない、という主張をしているところ。つまり、現代の外交においては、国家以外の主体との対話を重視しなければいけないと主張しているのだ。

彼は、最初の方で、近年にける紛争の内訳においては、「国家間」の紛争よりも圧倒的に「国家内」の紛争が増えてきており、伝統的な国同士の外交、つまり「外交官」vs「外交官」の対話だけでは不充分になってきている現状を説明する。

そして、テロリストであれ、社会的勢力であれ、市民社会であれ、国家ではない「グループ」との対話をきちんとしていくことが問題解決には必要だとの主張を展開していく。

そして、次のように続ける。

Another acknowledgment we've seen during these years, recent years, is that very few of these domestic interstate, intrastate conflicts can be solved militarily. They may have to be dealt with with military means, but they cannot be solved by military means. They need political solutions

ざっくり訳せば、以下のようになる。

近年分かってきたもう1つのことは、こうした国境内紛争が軍事力によって解決できるということは稀だということです。こうした紛争は、軍事力によって「対処」はできるけれど、「解決」はできないのです。政治的な解決が必要なのです

ここに見られる認識=外交はもはや国家間だけのものではなく、また、解決方法として軍事力では不充分である、という認識は、当たり前のようでいて大きな変化・先進的な変化のように思える。

国際関係論の分野ではtransnationalismという言葉で随分前から語られてきた話ではあるけれど、現場の外交官がその意識を持って、しかもアフガンやアラブの春を事例に出して語るあたりは非常に印象的だ。

さらに印象的なのは、アラブの春について語った部分。ここで、彼は、私たちはアラブの春が起きて、民衆が立ち上がったことを歓迎したけれども、歓迎してみて初めて、今度は、自分たちがほとんど彼ら(民衆)について何も知らなかったことに気付いたのだ、と述べる。なぜなら、殆どの政府は権威主義的な指導者の方針に従って彼ら(=民衆=”テロリスト”と見なされていた人たち)と対話してこなかったからだ、と認めている。

そして後半では、対人地雷禁止条約のオタワ・プロセスやネルソン・マンデラなども引きながら、立場を違えても対話することは可能だということを論じていく。

そして、最後の方では、気候変動問題の解決についても振れ、その中では市民社会との対話が大事だと述べる。そしてのその理由を以下のように述べる。

What is the legitimacy of diplomacy, of the the solution we devise as diplomats if they cannot be reflected and understood by also these broader forces of societies that we now very loosely call groups?

ざっくりと日本語に訳したらこんな感じだろうか。

外交の正統性とは何でしょうか?外交官が練り上げる解決策というものがもし、私たちが広く「グループ」とここで呼ぶ、より社会勢力の中でよく検討され、理解されないものだとしたら、その正統性はどこにあるのでしょう?

外交の正統性、つまり、そもそも外交とは何のためにやるのか、という問いにまで立ち返るのだ。それを、単に「国益のため」という言葉でくくるのではなく、世界の問題解決のための手段として位置づける意図が明確に聞いてとれる。

こういう言葉が外相から出てくるというのが面白い。どれくらい、実践を出来ているのかという問題は残るが、それでも。

今日のFT:エルピーダ・メモリ

FTの名物コラムであるLEXがエルピーダについて取り上げていた。

DRAM業界全体の設備過剰気味の傾向に改めて警鐘を鳴らすとともに、エルピーダそのものの今後については、業界2位と3位の韓国Hynixと米国Micronで分割するのがよいだろうと述べている。1位のサムソンに対して、今以上の助けはいらないから、競争がある方が業界全体にとってはよい、とのこと。

ただ、本当に業界自体の設備過剰が問題なら、エルピーダの設備そのものをどうするかが問題になるのではなかろうか。特許などはともかくとしても。

この業界に特段に興味があるわけでもないのだけれど、日本が得意だった産業が苦杯をなめる状況の象徴的な分野として、やや印象的だったので、今回改めてFTがこうして淡々と取り上げてるのが気になった。

高い化石燃料価格が世界経済を圧迫する?

石油を始めとする化石燃料価格が高い、というのは、もはやニュースではなくなっているが、仮にこのままの傾向が続けば、世界全体の景気動向に影響がでるかもしれないと、IEAの専門家が警告したとのこと。

記事はどちらかというとEUとアメリカの話に焦点が置かれ、オバマ大統領の再選にも影響がでかねないとのコメントに言及しているが、日本の数字もちょっと出てくる。

それによると、日本はこのままいけば2012年1年間で、1,980億ドル(1ドル=85円なら約17兆円)、GDPの約3.2%に相当する額を石油輸入のために使うことになるだろうと書かれている。

昨年・2011年の数字は1,780億ドル(同約15兆円)だそうなので、約2兆円の追加負担だ。さらに、2000〜2010年の平均で言えば、940億ドル(同約8兆円)・GDPの約2.1%だそうだ。

GDPの成長率について一桁台の違いが問題視されている時に、石油の輸入額だけで1%以上の違いを生むとなれば、それは確かに経済成長そのものに響くといえる。

これに、例のイラン制裁をめぐってホルムズ海峡の封鎖が起きることのリスクも加わり、見通しが暗いことが述べられている。日本にとっても、ますます大変な状況が訪れるかもしれない。